#演奏で変わった私

「周りについていけない」置いてけぼり感。演奏で自分らしい成長曲線を見つけた話

Tags: コンプレックス, 他人と比較, モチベーション, 自己肯定感, 成長, 練習法

周りの成長スピードに焦りを感じていませんか?

「あの人、この前まで同じくらいだったのに、もうあんな曲を弾いている…」「練習会に行くと、いつも自分だけ置いていかれている気がする」

楽器演奏を続けていると、ふと周りのレベルが気になり、自分の成長スピードに焦りを感じることは少なくないでしょう。特に、学生の頃のように練習時間を十分に確保できない社会人にとって、周りの同年代の演奏家がどんどん先に進んでいるように見えると、「自分には才能がないのかもしれない」「このまま続けていても無駄なのでは」と、不安や劣等感に苛まれてしまうこともあるかと思います。

私自身もそうでした。社会人になってから本格的に始めた楽器は、学生時代からの経験者や、同じように社会人から始めても驚異的なスピードで上達していく仲間たちの存在に、常に引け目を感じていました。練習しても練習しても、なかなか彼らのレベルに追いつけない。基礎練習に時間をかけるほど、応用的な曲を軽々と弾きこなす周りの音が耳に入り、「自分は何をしているんだろう」と感じることもありました。

この「置いてけぼり感」は、私の演奏に対する意欲を徐々に削いでいきました。新しい曲に挑戦するのも億劫になり、練習も義務感から行うようになり、いつしか楽器に触れること自体が少し辛く感じられるようになっていたのです。

「追いつくこと」から「自分と向き合うこと」へ

そんな状況を変えたいと思いながらも、具体的に何をすれば良いのか分からず、ただ漠然と「もっと練習しなきゃ」と自分を追い詰める日々が続いていました。しかし、ある時、尊敬する演奏家の方からいただいた言葉が、私の考え方を大きく変えるきっかけとなりました。

その方は、「他の誰かになろうとしても、なれませんよ。あなたが目指すべきなのは、今日の自分よりも少しでも良い自分になることだけです」と仰いました。最初はピンとこなかったのですが、この言葉を繰り返し反芻するうちに、私は自分が「他人と比較して、彼らに追いつくこと」ばかりに気を取られ、一番大切な「自分自身の成長」から目を背けていたことに気づかされたのです。

自分らしい「成長曲線」を描くために取り組んだこと

この気づきから、私は意識的に「他人と比較すること」をやめ、自分自身の演奏とより深く向き合うことを決めました。もちろん、すぐに「置いてけぼり感」が消えたわけではありません。周りの演奏を聴けば、つい以前のように落ち込みそうになることもありました。それでも、以下の3つのことを実践することで、徐々に自分らしいペースで演奏と向き合えるようになったのです。

  1. 過去の自分との比較に焦点を当てる: 現在の自分と周りの誰かを比較するのではなく、数ヶ月前、あるいは1年前の自分自身の演奏と現在の演奏を比較するようにしました。録音を聴き返したり、過去に練習していた楽譜を見直したりすることで、「この部分は前よりもスムーズに弾けるようになったな」「苦手だったこの音が出せるようになったな」といった、具体的な成長を実感できるようになりました。これは、周りがどんなに速いスピードで進んでいても、自分自身も確かに前に進んでいるのだという、静かな自信に繋がりました。

  2. 「量」より「質」、そして「小さな成功」を積み重ねる: 周りに追いつくためには、とにかく練習量を増やさなければ、という考えから、「限られた時間で何を達成するか」を明確にするようにしました。例えば、「今日はこのフレーズのテンポを上げて弾けるようにする」「この部分の音色を改善する」など、練習のたびに具体的な目標を設定しました。そして、その小さな目標が達成できたら、たとえ周りから見れば些細な進歩でも、自分自身をしっかり褒めるようにしました。この「小さな成功体験」の積み重ねが、次の練習へのモチベーションを維持する大切な燃料となりました。

  3. 自分にとっての「理想の演奏」を再定義する: 以前は、周りの上手な人の演奏を「理想」としてしまい、「あの音が出せない」「あの表現ができない」と悩んでいました。しかし、大切なのは誰かのコピーではなく、自分自身の個性を活かした演奏であるはずです。自分がどんな音色が好きか、どんな表現をしたいか、どんな音楽を心地よいと感じるのか、といった内面的な部分に耳を傾ける時間を増やしました。時には、ただ好きな曲を自由に弾いてみたり、誰かのためではなく自分のためだけに演奏する時間を持ったりしました。これにより、演奏の目的が「周りに認められること」から「自分が心から楽しめること」へと変化し、純粋な演奏の喜びを取り戻すことができました。

周りを見つつも、自分の道を歩む

これらの取り組みを通して、私は周りの演奏家たちを「目標」や「比較対象」として見るのではなく、「刺激を与えてくれる存在」として受け入れられるようになりました。彼らの素晴らしい演奏を聴けば、もちろん「自分ももっと頑張りたい」という気持ちになりますが、それはもう「追いつかなければ」という焦りではなく、「自分ならどんな風に表現できるだろうか」という前向きな探求心に変わりました。

演奏の成長には、人それぞれ異なる「成長曲線」があることを学びました。速いスピードで一気に駆け上がる人もいれば、ゆっくりと確実に、しかし深く味わいながら進む人もいます。どちらが良い、悪いということではなく、自分自身のペースで、自分自身の音と向き合うことが何よりも大切なのです。

もし今、「周りについていけない」と感じて焦りや不安を感じている方がいれば、一度立ち止まって、ご自身の「成長曲線」を見つめ直してみてください。あなたは、あなた自身のペースで、着実に、そしてあなたらしい音楽の道を歩んでいます。周りの音に耳を澄ませつつも、何より自分自身の内なる声に耳を傾けること。それが、演奏を通して自己肯定感を育み、長く音楽を楽しんでいくための大切な一歩になるはずです。

演奏は、誰かと競うものではありません。それは、自分自身との対話であり、内面を表現する素晴らしいツールです。演奏を通して、あなただけの、そして誰にも真似できない「自分らしい成長」を実感できることを願っています。