「これ、意味あるのかな?」練習の成果が見えなかった時期を乗り越えた話
「これ、意味あるのかな?」練習の成果が見えなかった時期
楽器を始めてしばらくすると、誰もが一度は「これで合っているのだろうか」「本当に効果が出ているのだろうか」と感じる時期に直面するかもしれません。毎日、あるいは週に数時間、一生懸命練習に取り組んでいるのに、技術的な進歩が感じられなかったり、演奏の質が向上している実感が持てなかったりすると、「これ、意味あるのかな?」という疑問が頭をよぎることがあります。
特に、社会人になってから演奏を続けている方の中には、限られた時間の中で練習時間を確保しているにも関わらず、成果が見えないことに焦りや無力感を抱く方も少なくないのではないでしょうか。学生時代のようにまとまった練習時間が取れない中で、「このまま続けていても、いつか壁にぶつかってしまうのではないか」といった不安が募ることもあります。
私の場合は、あるフレーズがどうしてもスムーズに弾けなかったり、以前よりミスが増えたように感じたりすることが続いた時期がありました。楽譜通りに音を並べることはできても、求める音色や表現から程遠く、「ただ音を出しているだけではないか」と感じていました。周囲のレベルアップを耳にしたり目にしたりする機会が増えるにつれて、自分だけが取り残されているような、まるで停滞しているかのような感覚に陥り、練習へのモチベーションが低下していきました。
成果が見えない原因と向き合う
この「成果が見えない」という悩みの渦中にいるとき、私はいくつかの原因があるのではないかと考えるようになりました。
まず一つ目は、練習目標が曖昧だったことです。「なんとなく上手くなりたい」という思いはあっても、具体的に「何を」「どのように」「いつまでに」改善したいのかが明確ではありませんでした。そのため、毎日の練習が漫然としたものになり、効率が非常に悪かったのです。
二つ目は、自己評価が厳しすぎたことです。小さな進歩や変化に気づくことができず、「完璧にできない=成果がない」と短絡的に判断していました。また、他人と比較して自分に足りない部分ばかりに目が行き、自分が既に習得できていることや、以前より良くなった点を見落としていました。
三つ目は、練習の「方法」そのものを見直していなかったことです。同じ箇所で詰まるのは、もしかすると指使いや身体の使い方が根本的に間違っているのかもしれません。しかし、ただ繰り返すだけの練習になってしまい、効果的なアプローチを試みていませんでした。
練習方法と向き合い方を変えてみた
成果が見えない状況を打開するために、私は練習に対する考え方と具体的な方法を少しずつ変えていくことにしました。
1. 小さな「できた」に焦点を当てる
「難曲を完璧に弾けるようになる」といった大きな目標はもちろん大切ですが、それだけでは道のりが遠く感じられ、途中で挫折しやすくなります。そこで、私は練習のたびにその日達成したい「小さな目標」を設定するようにしました。例えば、「このフレーズの〇小節目から〇小節目までを、店舗△で一度も止まらずに弾く」「この音のロングトーンで、特定の音色を3回連続で出す」など、短時間で達成可能な、具体的な行動目標です。
そして、それが達成できたら、どんなに小さなことでも良いので、必ず自分を褒めるようにしました。「できた!」という感覚を練習の中で意識的に積み重ねることで、それまで見えなかった「成果」を少しずつ感じられるようになりました。これは、練習継続の大きな原動力となりました。
2. 客観的な視点を取り入れる
自分の演奏を客観的に評価することは、成果を見つける上で非常に重要です。しかし、自分の演奏を録音したり、動画で撮ったりすることには抵抗があるかもしれません。私も最初はそうでした。しかし、勇気を出して録音してみると、自分では気づかなかったテンポの揺れや音のムラ、表現の癖などが驚くほど明確に分かります。
この客観的な視点は、「成果が見えない」のではなく、「成果の現れ方に気づけていなかった」という発見に繋がりました。例えば、録音を聞き比べてみると、以前は全くできなかったフレーズが、少しずつでもスムーズに弾けるようになっていることに気づけたりします。また、自分の課題がより明確になるため、次に何を重点的に練習すべきかが見えてきます。
3. 練習内容を記録し、振り返る
毎日の練習で何に取り組んだか、どんな気づきがあったかを簡単に記録する習慣をつけました。練習ノートやスマートフォンのメモ機能などを活用しました。
記録をつけることで、練習の「量」だけでなく「質」を意識するようになります。「今日は基礎練習に〇分、課題曲のA部分に〇分、 B部分に〇分取り組んだ」だけでなく、「A部分はここがスムーズになった」「B部分のこの箇所がまだ不安定」といった具体的な反省点や改善点も書き加えます。
そして、週に一度など定期的にこの記録を振り返ります。これにより、自分がどのような点に時間をかけているか、どのような練習が効果的だったか、逆に何が課題として残っているかが見えてきます。これは、漫然とした練習から脱却し、より戦略的に練習を進めるための強力なツールとなりました。過去の自分と比べることで、成長を実感しやすくなります。
4. 完璧を目指しすぎない
「成果が見えない」と感じるとき、往々にして「完璧な演奏」を理想としていることがあります。もちろん、理想を持つことは大切ですが、常に完璧を求めすぎると、少しでもできない部分があると全てが無駄だったかのように感じてしまいがちです。
「今日の練習で、昨日よりほんの少しでも良い音が出せた」「このフレーズを弾くときの身体の使い方が少しだけ楽になった」といった、微細な変化や改善も「成果」として認識するように意識を変えました。完璧ではなく、「昨日より少しでも良くなること」を目指すマインドセットを持つことで、練習に対する心理的なハードルが下がり、継続しやすくなりました。
「成果」の定義が変わったとき
これらの取り組みを通じて、「成果」とは必ずしも劇的な上達や完璧な演奏だけを指すのではない、ということに気づきました。
私の考える「成果」は、以下のようなものに広がりました。
- 昨日できなかったことが、少しでもできるようになること
- 自分の演奏の課題を客観的に理解できること
- 効果的な練習方法を考え、試行錯誤できること
- 練習を通じて、自分自身の成長や変化に気づけること
- 困難な状況でも、演奏を続ける選択ができること
「これ、意味あるのかな?」と悩んでいた時期は、まさに演奏と自分自身への信頼を失いかけていた時期でもありました。しかし、練習の成果は目に見える技術的な進歩だけでなく、練習への向き合い方や、自分自身の内面的な変化としてもしっかりと現れているのだと理解できたとき、再び前向きな気持ちで演奏と向き合えるようになりました。
もし今、あなたが「練習しているのに、成果が見えない」と感じて悩んでいるとしたら、それはあなただけではありません。多くの演奏者が経験する、成長のための大切なプロセスの一部です。焦らず、小さな成果に目を向け、練習の方法や自分自身の考え方を見直してみることで、きっと新たな景色が見えてくるはずです。そして何より、楽器と向き合う時間そのものが、あなた自身を豊かに変えていく大切な「成果」なのかもしれません。