#演奏で変わった私

「忙しいから無理」そう思っていた私が、演奏を続けるために見つけたこと

Tags: 練習時間, 社会人, モチベーション, マインドセット, コンプレックス

練習時間ゼロ。会社員になって直面した壁

大学を卒業し、社会人になったとき、私の演奏生活はあっけなく失速しました。学生の頃は当たり前のように確保できていた楽器に向かう時間が、嘘のように消え去ったのです。仕事に追われる日々の中で、「疲れているから」「時間がないから」を言い訳に、楽器ケースは部屋の隅で埃をかぶるようになりました。

周りには、仕事と両立しながらも着実に上達しているように見える友人たちがいます。彼らのSNSでの演奏動画を見るたび、「自分はなんて意志が弱いんだ」「才能がないから続かないんだ」と、ひどく落ち込みました。かつては自信のよりどころだった演奏が、いつしかコンプレックスの種になっていたのです。「もう、忙しい自分には演奏は無理なのかもしれない」。そう、半ば諦めかけていました。

「時間がない」の本当の意味に気づく

そんなある日、ふと気づいたのです。「本当に時間がないのだろうか?それとも、時間があっても練習する気力が湧かないだけではないか?」と。それは、物理的な時間だけでなく、精神的な余裕の欠如や、完璧に練習できないなら意味がない、という固定観念に縛られていた自分に気づいた瞬間でした。

長時間集中して練習できる時間はない。でも、1日5分なら? 10分ならどうだろう? 通勤時間や昼休憩、寝る前のわずかな時間など、細切れの時間は意外と存在します。問題は、その短い時間を「練習」と認識していなかったこと、そして「少ししかできないなら、やらない方がマシ」と考えていたことでした。

限られた時間の中で見つけた「質の高い向き合い方」

考え方を改めてからは、限られた時間を最大限に活かす工夫を始めました。

まず、完璧主義を手放しました。全部通して弾けなくてもいい。苦手な一小節だけを何度も繰り返す。新しい曲の譜読みを少しだけ進める。基礎練習のメニューを一つだけ行う。このように、練習のハードルを極限まで下げたのです。たとえ5分でも、楽器に触れたという事実が、自信の小さな積み重ねになります。

次に、目標設定を変えました。以前は「〇〇の曲を完璧に弾けるようになる」といった大きな目標ばかり見ていましたが、それを「今週中にこのフレーズを滑らかにする」「毎日5分だけ指慣らしをする」といった、達成可能な小さなステップに分解しました。小さな目標をクリアするたび、「できた!」という喜びが、次の練習へのモチベーションにつながりました。

また、練習時間を「確保するもの」から「隙間時間を見つけて行うもの」へと意識を変えました。朝起きてすぐに5分だけ音を出す。通勤電車の中で楽譜を読む(イメージトレーニング)。昼休みにアプリのメトロノームに合わせてリズム練習をする。このように、日々の生活の中に溶け込ませることで、練習が特別な負担ではなくなりました。

演奏を通じて変わった「私」

こうした取り組みを続けるうちに、驚くほど気持ちが変化していきました。練習時間が短くても、そこに集中することで得られる満足感は、長時間漫然と練習していた頃以上のものでした。他人との比較に悩むことも減り、過去の自分と比べて「あの頃はできなかったフレーズが、今は少しスムーズに弾けるようになったな」と、自分の成長に目を向けられるようになりました。

「時間がない」というコンプレックスは、「短い時間でも、質の高い向き合い方ができる」という自信に変わりました。これは演奏だけでなく、仕事や日々の生活にも良い影響を与えています。限られたリソースの中でどう成果を出すか、という考え方が身についたように感じます。

かつては諦めかけた演奏ですが、今は生活の一部として、無理なく、そして楽しく続けられています。演奏は、私の忙しい日常に彩りを与え、自分自身の内面と向き合う大切な時間となっています。「忙しいから無理」ではない。大切なのは、どんな状況でも演奏とどう向き合うか、その「質」を見つけることなのだと、演奏が教えてくれました。