#演奏で変わった私

「私には才能がない」そう思っていた私が、演奏を続ける中で見つけたこと

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「才能がない」という、言葉にならない不安

楽器を演奏していると、周りには本当に「上手い人」がたくさんいることに気づかされます。SNSを開けば、同世代なのに驚くほど高度な技術を持つ人や、まるで魔法のように感情豊かな音色を奏でる人が溢れています。そんな演奏を目の当たりにするたび、心の中に漠然とした不安がよぎることがありました。

「どうしてあの人はあんなに簡単に弾けるんだろう?」 「私には、ああいう風に心を震わせる演奏はできないんじゃないか?」 「もしかして、私には特別な才能がないのかもしれない。」

この「才能がない」という思い込みは、言葉にするのが難しい、しかし根深く心に引っかかっているコンプレックスでした。努力しても追いつけない壁を感じるたび、自分の限界を突きつけられているような気がして、練習へのモチベーションが低下したり、「どうせやっても無駄だ」と諦めそうになったりすることもありました。特に、社会人になってから練習時間の確保が難しくなり、学生時代からの経験者との差を痛感するようになってからは、その思いがより強くなったように感じます。

「才能」という言葉に縛られていた私

この「才能がない」というコンプレックスは、私の演奏をどこか窮屈なものにしていました。上手い人の真似をしようとして、自分の音を見失ったり、少し難しいフレーズにつまずくだけで、「やっぱり自分には無理なんだ」と落ち込んだりしていました。

当時の私は、「才能」とは生まれ持った特別な能力であり、それがない自分はどんなに努力しても一流にはなれない、と考えていたように思います。だから、上手い人を見るたびに、自分にはないものを持っている、と感じて焦りや劣等感を募らせていたのです。

そんな状態がしばらく続いたある日、ふと立ち止まって考えました。 「そもそも、『才能』って何だろう?」と。

音楽史に残るような偉大な作曲家や演奏家も、例外なく想像を絶する努力と研鑽を重ねています。彼らの演奏が「才能」の輝きとして私たちに届くのは、その圧倒的な努力があってこそではないでしょうか。

「努力を続けられること」も才能だと気づいた

この問い直しを通じて、私の「才能」に対する見方は少しずつ変わっていきました。「才能」とは、もしかしたら、何か特別な技術が最初から備わっていることだけを指すのではないのかもしれない。もしかしたら、「好き」な気持ちを保ち続け、地道な努力を積み重ねていける粘り強さや情熱も、立派な「才能」と呼べるのではないか、と思うようになったのです。

そう考えられるようになってから、私の演奏への向き合い方が少し変わりました。上手い人と自分を比較して落ち込むのではなく、彼らの演奏から学べる部分を探すようになりました。そして、自分の小さな成長に目を向けられるようになりました。

これらの小さな変化は、「特別な才能」が突然開花したわけではありません。地道な練習を続けたからこそ得られた、努力の積み重ねによる確かな成果です。

自分自身の「成長」にフォーカスする

「私には才能がない」という思い込みを手放し、「努力を続けられる才能」に価値を見出すようになってから、演奏することが以前よりずっと楽になりました。「天才」になることや、誰かと同じように弾くことではなく、自分自身のペースで、昨日より少しでも成長することに楽しさを見出せるようになったからです。

もちろん、今でも素晴らしい演奏に触れると圧倒されることはあります。でも、そこで「才能がない自分」を悲観するのではなく、「自分もこうなりたい」という憧れや、「そのためにはどんな練習が必要だろう」という前向きな探求心につながるようになりました。

演奏を通じて、私は「生まれ持ったもの」だと諦めていたことに、努力や考え方次第で向き合い方を変えられることを学びました。「才能がない」というコンプレックスは完全には消えていないかもしれませんが、それを気にしすぎず、自分の音楽と静かに向き合う強さを得ることができました。

最後に

もしあなたが「私には特別な才能がないのかもしれない」と感じて、自信を失いかけているとしたら。

その思い込みが、もしかしたらあなたの可能性を狭めているかもしれません。「才能」という言葉に縛られすぎず、あなたが音楽を「好き」でいること、そしてたとえ少しずつでも練習を続けられていること、その「継続する力」こそが、あなただけの大切な才能なのだと、一度立ち止まって考えてみていただきたいと思います。

他人との比較ではなく、自分自身の成長に目を向けること。完璧を目指すのではなく、今の自分にできることを見つけ、丁寧に取り組むこと。そうすることで、きっと演奏はもっと自由で、あなた自身のものになっていくはずです。そして、その過程で得られる自己肯定感や粘り強さは、演奏だけでなく、あなたの人生全体を豊かにしてくれる力となるでしょう。