#演奏で変わった私

プロの演奏に心が折れそうになった私が、視点を変えて上達への糧を見つけた話

Tags: モチベーション, コンプレックス, 上達, マインドセット, 他人との比較

プロの演奏に圧倒され、自信を失った経験

楽器演奏を続けていると、プロの演奏家や、自分よりもはるかにレベルの高いアマチュアの方々の演奏を聴く機会が必ず訪れます。コンサートやライブ、録音物、最近ではインターネット上の動画など、素晴らしい演奏に触れることは、多くの演奏者にとって刺激であり、目標となるものです。

私も、最初は純粋に「すごいな」「こんな風に弾けたら素敵だな」という憧れから聴き始めました。しかし、演奏経験を積むにつれて、その技術の正確さ、表現の幅広さ、音楽性の深さといったレベルの差を痛感するようになり、いつしか憧れは「自分には絶対に無理だ」という絶望感や、「なぜ自分はこんなに弾けないんだ」という劣等感へと変わっていきました。

特に、仕事の合間を縫って限られた時間で練習している身としては、プロの演奏に触れるたびに「彼らはどれほど膨大な練習時間を費やしてきたのだろう」「自分には才能がないのではないか」と考え込み、練習に向き合うのが辛くなる時期がありました。楽譜を開いても、ただ難しい箇所ばかりが目につき、音が鳴るたびに自分の未熟さを突きつけられているような感覚に陥っていたのです。

「比較」から「分析」へ:視点を変えるという試み

この「心が折れそうになる」状態から抜け出すため、私は一度、自分がなぜこれほどまでに落ち込むのか、その原因と向き合ってみることにしました。そして気づいたのは、私がプロや上級者の演奏を「自分と比較する対象」としてしか見ていなかったということです。彼らの演奏を聴くたびに、「自分はこれができない」「あの速さで弾けない」「こんな音が出せない」という欠落感ばかりに目を向けていたのです。

そこで、思い切ってその視点を変えてみることにしました。「比較」ではなく、「分析」の対象としてプロの演奏を聴いてみよう、と。

具体的には、以下の点を意識するようにしました。

  1. 完璧な演奏を期待しない: まず、プロの演奏であっても「生身の人間が演奏しているもの」であることを意識しました。もちろん圧倒的な技術ですが、彼らもまた練習を積み重ねた結果であり、最初から完璧だったわけではない、という当たり前のことに立ち返りました。
  2. 「できないこと」ではなく「興味を持ったこと」に焦点を当てる: 演奏全体のすごさに圧倒されるのではなく、「この部分の音が特に美しいな」「このリズムの取り方が独特で心地良いな」「このフレーズはどのように練習したらこんな風に弾けるんだろう?」など、自分が特に心惹かれた点や、技術的に疑問に思った点に意識を向けました。
  3. 演奏を「分解」して聴く: 音楽を一つの塊として聴くのではなく、リズム、メロディ、ハーモニー、音色、フレージング、ダイナミクスなど、要素ごとに分けて聴くように努めました。例えば、速いパッセージなら「指の運び方は?」「どのような強弱で弾いている?」、歌うようなメロディなら「どのように息を使っている?」「どこでクレッシェンド/デクレッシェンドしている?」といったように、具体的な演奏の「仕掛け」を探るような感覚です。
  4. 楽譜と照らし合わせる: 可能であれば、楽譜を見ながら音源を聴きました。特に、楽譜に書かれていない、しかし演奏から感じ取れる表現のニュアンス(例えば、ほんのわずかなルバートや、特定の音を際立たせる工夫など)に注目しました。

学びを得て、自分らしい上達の道を

このように視点を変えて聴くようになったことで、プロの演奏は私にとって「自分との差を突きつけられる辛いもの」から、「上達のためのヒントが詰まった宝箱」へと変わりました。

もちろん、すぐに彼らのレベルに到達できるわけではありません。しかし、彼らの演奏を分析することで、「この表現のためには、こういう基礎練習が必要なのか」「私が苦手なこの部分は、このようにアプローチすれば改善できるかもしれない」といった具体的な学びを得られるようになりました。

そして何より大きかったのは、他人との比較ではなく、「過去の自分」と比較することに意識が向くようになったことです。プロの演奏から得たヒントを自分の練習に取り入れ、少しずつでも変化を感じられるようになると、「自分も成長できている」という実感が湧き、練習へのモチベーションが再び高まっていきました。

完璧な演奏を目指すのではなく、自分のペースで、一つずつ課題をクリアしていくこと。そして、プロの演奏を「超えられない壁」ではなく、「学びを与えてくれる素晴らしいお手本」として敬意を持って聴くこと。この考え方の変化が、私の演奏との向き合い方を大きく変え、再び音楽を楽しむ力を与えてくれました。

もし今、あなたもプロや他の演奏者のレベルの高さに圧倒され、自信を失いかけているとしたら、一度「比較」のレンズを外して、「分析」や「学び」の視点から彼らの演奏を聴いてみてはいかがでしょうか。きっと、新しい発見があり、あなたらしい上達への道筋が見えてくるはずです。演奏を通して得られるものは、技術的な上達だけではなく、困難な状況に対する向き合い方や、視点を変えることの重要性といった、人生においても役立つ多くの気づきなのだと、私はこの経験を通して学びました。