「本番になると頭が真っ白」練習の成果を発揮できなかった私が、自信を持って演奏できるまで
練習では弾けるのに、本番になると体がこわばる
「練習では完璧だったのに」「なぜか本番になると指が思うように動かない」
演奏を続けている方であれば、一度は経験されたことがあるかもしれません。どれだけ時間をかけて練習しても、いざ人前で演奏する段になると、緊張で頭が真っ白になり、普段の力が全く発揮できない。そんな経験が重なるたび、自信を失い、「自分は本番に弱い人間なんだ」と決めつけてしまう。
私自身も、長年この悩みを抱えていました。仕事の合間に時間を捻出し、時には睡眠時間を削って練習しても、本番で練習の成果を出すことができない。発表会や演奏会のたびに、期待に応えられない自分に落胆し、演奏することが怖くなっていくのを感じていました。
なぜ、これほどまでに本番と練習で差が出てしまうのか。単なる練習不足ではないことは、自分自身が一番よく分かっています。どうすれば、練習で積み上げてきたものを、本番という特別な場所で堂々と表現できるようになるのだろうか。この壁を乗り越えたいと強く願っていました。
プレッシャーの正体と向き合う
本番で力を出せない原因は、技術的な問題だけではなく、心理的な側面が大きいと感じていました。特に、以下の点が私を苦しめていたのです。
- 失敗への恐怖: 失敗して聴いている人をがっかりさせたくない、という思いが強すぎる。
- 完璧主義: 少しのミスも許せない、最初から最後まで完璧に演奏しなければ、という強迫観念。
- 他人からの評価への過敏さ: どう見られているか、どう思われているかばかりを気にしてしまう。
- 本番という環境: 普段とは違う会場の雰囲気や、聴衆の視線に過度に意識が集中する。
これらの心理的なプレッシャーが、本番になると体のこわばりやミスの誘発に繋がっていたのです。この「本番に弱い自分」というコンプレックスは、演奏へのモチベーションを著しく低下させるものでした。
「いつも通り」のための特別な準備
この悩みを克服するために、様々な試みを始めました。最初は「もっと練習すれば大丈夫だろう」と、ただ練習量を増やそうとしましたが、結果は同じ。そこで、練習の内容や、本番への向き合い方そのものを見直すことにしたのです。
特に効果があったのは、以下の3つのアプローチでした。
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「本番を想定した練習」を取り入れる: これまでの練習は、フレーズごとの反復練習や、通し練習が中心でした。しかし、「本番を想定した練習」として、以下を意識的に取り入れました。
- 一発録り練習: ミスをしても止めずに、最初から最後まで弾き通す練習。これは、本番でミスを引きずらず、次に繋げるための重要な訓練でした。録音することで、後から冷静に自分の演奏を客観視することもできます。
- 人前で弾く機会を作る: 家族や友人の前、あるいは小規模な演奏会など、聴衆がいる状況で演奏する機会を意図的に作りました。最初は非常に緊張しましたが、場数を踏むことで、本番の雰囲気に慣れていくことができました。
- ミスを恐れない練習: 練習中に敢えて難しい箇所を速いテンポで弾いてみたり、多少のミスを気にせず進める練習をしました。これにより、本番での「完璧でなければ」という呪縛から少しずつ解放されていきました。
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「完璧」ではなく「表現したいこと」に焦点を移す: 楽譜通りに正確に弾くことだけが目標になっていた考え方を改めました。その曲を通して何を伝えたいのか、どんな音色や表現を目指したいのか、という「自分が表現したいこと」に意識を集中させるようにしたのです。そうすると、ミスの数よりも、曲全体の流れや自分が込めたメッセージを届けることの方が大切だと感じられるようになりました。この視点の転換が、演奏中の精神的な余裕を生み出しました。
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演奏以外の「本番準備」を習慣にする: 本番前の過ごし方や、当日のルーティンも意識的に整えました。
- 事前のイメージトレーニング: 演奏する曲を頭の中で繰り返しイメージし、最高の演奏だけでなく、もしミスがあった場合のリカバリーもシミュレーションしました。
- 体を整える: 十分な睡眠を取り、本番前には軽いストレッチや深呼吸で体をリラックスさせる時間を設けました。体の緊張が心の緊張に繋がることを実感していたからです。
- 会場の空気に慣れる: 可能な限り、本番前に会場に入り、舞台の感触や客席からの景色に慣れるようにしました。
これらの具体的な試みは、すぐに劇的な変化をもたらしたわけではありません。しかし、継続することで徐々に本番への不安が軽減され、練習でできたことの多くを本番でも発揮できるようになっていったのです。
本番は「評価される場」から「表現する場」へ
「本番になると頭が真っ白」というコンプレックスを乗り越えられたのは、単に演奏技術が向上したからではありませんでした。それは、本番に対する考え方そのものが変わったからです。
本番は「自分の欠点やミスをさらけ出し、評価される場」ではなく、「これまで積み重ねてきた練習の成果を、聴いてくださる方に届けるための『表現する場』」である。そう思えるようになってから、演奏することが心から楽しいと感じられるようになりました。
もちろん、今でも全く緊張しないわけではありません。しかし、緊張を過度に恐れるのではなく、「少しの緊張は集中力を高める助けになる」と前向きに捉えられるようになりました。そして、たとえミスがあっても、それは成長のためのステップだと受け止め、次の演奏に活かそうと考えられるようになりました。
演奏を通じて、自分自身の内面にある課題(完璧主義、他人からの評価への過敏さなど)と向き合い、それを乗り越えるための具体的な行動や考え方を身につけることができました。これは、演奏だけでなく、仕事や他の人間関係にも良い影響を与えています。
もし今、あなたが本番でのパフォーマンスに悩んでいるなら、それは決してあなただけではありません。そして、その悩みは、技術だけでなく、心の持ち方や本番への向き合い方を変えることで、必ず乗り越えることができると信じています。完璧を目指すのではなく、あなたが「表現したいこと」に焦点を当て、小さな一歩から「本番を想定した練習」や「演奏以外の準備」を試してみてはいかがでしょうか。あなたの演奏体験が、さらなる自己変革に繋がることを願っています。