#演奏で変わった私

「これで合ってるか不安だった」自分の演奏を客観的に「聴く」習慣が、上達の突破口になった話

Tags: 練習法, 上達, 客観視, 自己評価, 演奏の悩み

「これで合っているのだろうか」尽きない不安

楽器を練習している時間のほとんどは、一人で音を出し続けているのではないでしょうか。特に社会人になり、かつてのように学校やサークルで仲間と一緒に練習したり、気軽に指導を受けたりする機会が少なくなると、自分の演奏が「これで本当に合っているのか」「上達につながる練習ができているのか」という漠然とした不安を抱えやすくなるように感じます。

私も、まさにその不安を常に抱えている一人でした。毎日少しずつでも楽器に触れるよう努力し、新しい曲に挑戦したり、基礎練習に取り組んだりしていました。しかし、練習の成果が目に見えにくい時期が続くと、「このまま続けていて意味があるのだろうか」「もしかしたら、根本的に間違った練習をしているのではないか」といった疑念が湧いてきました。

特に辛かったのは、他の人の演奏を聴いたときです。プロの演奏はもちろん、自分と同じくらいのキャリアや練習時間の人であっても、なぜあんなに説得力のある音色が出せるのだろう、なぜ自然で気持ちの良いリズムで演奏できるのだろうと、落ち込んでしまうことがよくありました。「自分にはセンスがないのかもしれない」というコンプレックスが、練習のモチベーションをさらに削いでいきました。

いくら長時間練習しても、どこをどう改善すればその「説得力」や「気持ちよさ」に近づけるのか、具体的な課題が見えませんでした。ただ漠然と音を出し、間違えないように楽譜を追うだけの練習になってしまい、ますます手応えを感じられなくなっていたのです。

聴きたくない「自分の音」を「聴く」勇気

そんな閉塞感を打破するきっかけとなったのは、ごくシンプルなことでした。ある日、何気なくスマートフォンで自分の練習風景を録音してみたのです。いつもは録音など考えもしませんでした。自分の未熟な演奏を客観的に聴くのは、恥ずかしいし、きっと落胆するだけだと思っていたからです。

しかし、試しに再生してみた自分の演奏を聴いたとき、最初はやはり耳を塞ぎたくなるような気持ちになりました。思っていたよりも音色が硬く、リズムも不安定で、意図しないところでテンポが揺れていることに気づきました。想像していたよりもはるかに「下手」に聞こえたのです。

しかし、同時に発見もありました。自分で演奏している時には全く気づかなかった、特定のフレーズでの左手の動きの癖や、息継ぎ(管楽器の場合)のタイミング、右手のストローク(弦楽器の場合)のムラなど、具体的な改善点が見えてきたのです。それは、頭の中で想像していた自分の演奏とは全く違う、生々しい現実でした。

この経験から、「自分の演奏を客観的に聴く」ことの重要性を痛感しました。それまでは、自分の耳で聴こえる音や、指先の感覚、楽譜の情報だけで自分の演奏を判断しようとしていました。しかし、実際には、自分がどう感じているかと、客観的にどう聴こえているかには大きな隔たりがあったのです。

客観視の習慣がもたらした変化

「自分の演奏を客観的に聴く」という習慣を意識的に取り入れることにしました。最初は短いフレーズや練習の一部でも良いので、録音して必ず聴き返すようにしました。そして、ただ聴くだけではなく、気になった点や改善したい点を具体的にメモする習慣もつけました。

この過程で、私の練習は少しずつ変化していきました。漠然と繰り返すのではなく、「この部分のリズムを安定させる」「この音の音色を柔らかくする」といった、明確な目的意識を持って練習に取り組めるようになったのです。具体的な課題が分かると、それに対する解決策も考えやすくなります。教則本を読み返したり、上手な人の演奏を注意深く聴いて真似してみたりと、試行錯誤を繰り返しました。

もちろん、すぐに劇的な変化があったわけではありません。時には、録音を聴き返して自分の出来なさに再び落ち込むこともありました。しかし、それでも改善点を見つけ、それに取り組むというプロセスを繰り返すうちに、少しずつですが確実に演奏が変化していくのを実感できるようになりました。

最も大きな変化は、内面的なものです。以前は「センスがない」と諦めかけていましたが、客観的な視点を持つことで、「これはセンスの問題ではなく、技術やアプローチの問題なのだ」と理解できるようになりました。そして、具体的な課題に対して努力すれば、確実に改善できるという経験を積み重ねることで、失いかけていた自信を取り戻すことができたのです。

演奏を通して得た「自分と向き合う力」

自分の演奏を客観的に「聴く」習慣は、単なる練習方法の一つにとどまりませんでした。それは、自分の現実と向き合い、課題を見つけ、それに対して粘り強く取り組むという、演奏以外の様々な場面でも役立つ力となりました。

もし今、あなたが「練習しているのに手応えがない」「何をどう改善すれば良いか分からない」といった悩みを抱えているのであれば、まずはあなたの演奏を「客観的に聴いてみる」ことから始めてみてはいかがでしょうか。録音でも、信頼できる人に聴いてもらうのでも良いでしょう。

最初は少し勇気がいるかもしれません。しかし、その一歩が、あなたの演奏、そしてあなた自身の成長の突破口となる可能性を秘めていると、私の経験を通して強く感じています。完璧を目指すのではなく、まずは「ありのままの自分を知る」ことから、変化は始まるのだと思います。