「自分の演奏が好きじゃない」そう思っていた私が、変わり始めたきっかけ
「自分の演奏が好きじゃない」と感じていませんか?
「どうして他の人みたいにうまく弾けないんだろう」「練習しても、全然理想の音にならない」。楽器を演奏していると、多かれ少なかれ、自分の演奏に満足できない瞬間が訪れるものです。特に、熱心に練習すればするほど、理想と現実のギャップに苦しみ、「もしかして、自分にはセンスがないんじゃないか」「何をどう頑張っても、自分の演奏が好きになれないのかもしれない」と、深く落ち込んでしまうこともあるでしょう。
私自身も、長年そうした悩みを抱えていました。一生懸命練習して、ある程度は弾けるようになっても、自分の演奏を聞き返すと「下手だな」「魅力的じゃないな」と感じてしまう。他の人の演奏を聴けば聴くほど、自分との違いばかりが目について、「自分には特別な才能がないんだ」と諦めそうになったことも一度や二度ではありません。
この「自分の演奏が好きじゃない」という感覚は、技術的な課題だけでなく、自己肯定感やマインドセットにも深く関わっています。そして、それは演奏を続ける上での大きな壁となり、モチベーションを低下させる原因にもなり得ます。
しかし、そんな状態から抜け出し、少しずつでも自分の演奏と向き合い、好きになれるきっかけを見つけることは可能です。ここでは、私がどのようにしてその壁を乗り越え、演奏に対する意識が変わっていったのか、その体験をお話しさせていただきます。
「好きじゃない」の原因を探ることから始めた
私の「自分の演奏が好きじゃない」という感情は、主に以下の点から来ていました。
- 理想とする音や表現とのギャップ: 頭の中で鳴っている音やイメージしている表現と、実際に出せる音、演奏表現が大きくかけ離れていると感じていました。
- 他人との比較: SNSやYouTubeなどで、自分よりはるかに上手い人の演奏を見るたびに、「なぜ自分はこうなれないんだ」と比較し、落ち込んでいました。
- 録音を聞くのが苦痛: 自分の演奏を客観的に聞こうと録音しても、粗ばかりが目につき、聞くのが嫌になっていました。
- 本番での失敗: 練習ではできていたことが、本番の緊張でうまくできず、その結果に自己嫌悪を感じていました。
これらの原因を漠然と感じてはいましたが、具体的に何が問題なのか、どうすればいいのかが分かりませんでした。そこでまず、「なぜそう感じるのか」を少し掘り下げて考えてみることにしたのです。
考え方と行動を少しずつ変えてみた
「自分の演奏が好きじゃない」という状況を変えるために、私はいくつかの行動とマインドセットの転換を試みました。
1. 録音との向き合い方を変える
以前は、録音は自分の欠点を確認するためのものでした。しかし、意識的に「ダメなところ探し」ではなく、「今の自分の演奏をありのままに知る」ためのツールとして使うようにしました。
- ポジティブな点にも目を向ける: たとえ小さなことであっても、「ここは思ったように弾けたな」「このフレーズの音色は悪くないな」といった、良い点や改善された点を探すようにしました。
- 具体的に分析する: 感情的な評価だけでなく、「テンポが不安定になるのはこの部分だ」「この音の響きが足りないな」のように、具体的な課題を特定することに集中しました。
- 定期的に記録する: 短期間での変化は分かりにくいものですが、数週間や数ヶ月単位で録音を聞き比べると、少しずつでも上達していることに気づけることがあります。この小さな変化の発見が、モチベーションの維持につながりました。
2. 目標設定を「完璧」から「成長」に変える
以前は、「あの人みたいに弾けるようになる」「楽譜通りに完璧に弾く」といった高い目標ばかりを追っていました。しかし、それでは目標達成までの道のりが遠すぎて、常に自己否定に陥ってしまいます。
そこで、「今日より明日、少しでも良い演奏をする」というように、日々の練習で得られる小さな成長に焦点を当てるようにしました。
- 小さなステップに分解: 難しい曲全体を完璧に弾くこと目指すのではなく、「今日はこの2小節を丁寧に練習しよう」「このフレーズの音色を意識しよう」のように、具体的で達成可能な小さな目標を設定しました。
- プロセスを評価する: 結果だけでなく、練習に取り組んだ時間や、工夫した点など、プロセスそのものも自分自身で評価するようにしました。「今日は疲れていたけど、15分だけ集中して基礎練習ができた」といった小さな成功体験を積み重ねることで、自己肯定感を育みました。
3. 他人との比較を「学び」に変える
他人の演奏は、自分を打ちのめすためのものではなく、学ぶための宝庫だと捉え直しました。
- リスペクトの視点を持つ: 上手い人の演奏を聴くときに、「すごいな」「どうしたらこんな音が出せるんだろう」とリスペクトを持って聴くようにしました。
- 具体的な工夫を探る: その人がどのような奏法を使っているのか、フレーズをどう表現しているのかなど、具体的な「どうやっているのか」に注目し、自分の練習に取り入れられないかを考えるようになりました。
- 自分の「らしさ」も認める: 他人の演奏を参考にしつつも、自分自身の音色や表現にも個性があることを意識し、それを肯定的に受け入れるように努めました。
変化の兆しと、演奏体験から得られたもの
これらの取り組みは、すぐに劇的な効果をもたらしたわけではありません。それでも、少しずつ私の演奏に対する向き合い方を変えていきました。
まず、録音を聞くことへの抵抗感が減り、客観的に自分の演奏を分析できるようになりました。完璧ではないけれど、「今の自分はこれができるんだ」と、ありのままの自分を受け入れることができるようになったのです。
小さな目標を達成していく過程で、努力が結果につながる喜びを感じられるようになり、「自分にもできることがある」という感覚が生まれました。これは、演奏だけでなく、仕事や他のことへの自信にも繋がっていきました。
そして、他人の演奏から学びを得る視点を持つことで、以前はコンプレックスの原因でしかなかった「他人」が、目標であり、インスピレーションを与えてくれる存在へと変わりました。同時に、自分自身の個性や表現したい音楽にも、より積極的に向き合えるようになりました。
演奏を通じて、自分自身を好きになる
「自分の演奏が好きじゃない」という悩みは、完全に消え去るわけではありません。新しい壁にぶつかるたびに、また自信を失いそうになることもあります。
しかし、かつてのようにそこで立ち止まり、自己否定に陥ることは少なくなりました。「今の自分にできることは何か」「この課題を乗り越えるために、何を試してみようか」と、前向きに考えることができるようになったのです。
演奏を通じて得られたのは、単なる技術の上達だけではありませんでした。「不完全な自分」を受け入れ、小さな一歩を積み重ねることの大切さ、そして、自分自身の成長を肯定するマインドセットです。
もしあなたが今、「自分の演奏が好きじゃない」と悩んでいるのであれば、それは一人ではありません。そして、その感情は、あなたが音楽に対して真剣に向き合っている証拠でもあります。
急に劇的な変化を求めず、まずはほんの小さな一歩から始めてみてください。録音を「分析」のために聞いてみる、今日の練習で一つだけ意識する点を決める、他の人の演奏から一つだけ真似したいことを見つけるなど、何でも構いません。
演奏を通じて、自分自身と向き合い、少しずつでもその過程を肯定できるようになること。それが、「自分の演奏が好きじゃない」というコンプレックスを乗り越え、演奏をもっと豊かに、そして自分自身をもっと好きになるための、大切なきっかけになるはずです。応援しています。