#演奏で変わった私

「なんとなく」練習していた私が、「狙いを持つ」意識で変わった話

Tags: 練習法, 上達の壁, モチベーション, マインドセット, 自己変革

練習しているのに、なぜか成果が感じられない日々

楽器を始めて数年が経ち、練習時間はそれなりに確保しているはずなのに、どうも上達の実感が持てない。そんな時期が長く続いていました。特に社会人になってからは、練習時間も限られるため、「少しでも時間を確保し、とにかく楽器に触る」ということに必死でした。

しかし、練習を終えるたびに感じるのは「今日もなんとなく時間を過ごしてしまったな」という感覚です。スケール練習、エチュード、課題曲...とメニューをこなしても、具体的に何ができるようになったのか、何が課題なのかが曖昧なままでした。SNSで他の演奏者さんの輝かしい投稿を見るたびに、自分との差を感じ、焦りと共に「自分にはセンスがないのかもしれない」と落ち込むこともありました。

「時間」ではなく「目的」に意識を向け始めたきっかけ

この漫然とした状態から抜け出せたのは、ある日、信頼できる先輩演奏家からいただいた一言がきっかけでした。私が「頑張って練習しているのに、なかなか上手くならなくて…」と悩みを打ち明けたところ、その先輩は優しくこう尋ねました。「今日の練習で、何を一番克服したかった?」。

その問いに、私は即答できませんでした。「えっと、基礎練習と、曲のあの部分を…」と曖昧に答えるのが精一杯でした。先輩は続けました。「練習時間も大事だけれど、それ以上に『何のために、その練習をするのか』という目的を持つことが大切だよ。漫然と弾くのではなく、例えば『このフレーズの音を均一にしたい』とか、『このリズムを正確に刻めるようにしたい』とか、具体的な課題を設定して、それがクリアできるまで集中して取り組んでみる。そうすると、短い時間でも得られるものが変わってくると思うよ」。

「狙いを持つ」練習への転換

先輩のアドバイスを受け、私は自分の練習方法を見直すことにしました。それまでの私は、練習時間に合わせてメニューを消化することばかり考えており、個々の練習に明確な「狙い」を持っていませんでした。

まず、練習前に「今日の練習で何を達成したいか」という具体的な目標を一つか二つ設定するようにしました。例えば、「スケール練習で、特定の指の動きの滑らかさを改善する」「課題曲の難しい箇所の、テンポを落として正確に弾く練習に集中する」といった具合です。

そして、設定した目標に対して、どのようにアプローチするか(練習方法)も少し考えるようにしました。ただ繰り返すのではなく、「このフレーズは、この指順で弾くとスムーズか?」「このリズムは、メトロノームのどこにアクセントを置くと安定するか?」のように、試行錯誤しながら取り組む意識を持ちました。

最初は、すぐに成果が出なくてもどかしく感じたり、「こんなに細かく考えて練習するのは面倒だな」と思ったりもしました。しかし、目標を持って練習に取り組むことで、自然と集中力が増していることに気づきました。また、たとえ完璧にはできなくても、「今日の練習で、このフレーズが少しスムーズに弾けるようになった」という小さな進歩に意識が向くようになりました。

小さな成功体験が自信に繋がる

「狙いを持つ」練習を習慣にしていくうちに、少しずつではありますが、具体的な成果を実感できるようになりました。以前は何度もつまずいていたフレーズがスムーズに弾けるようになったり、苦手だったリズムが安定して刻めるようになったり。こうした小さな成功体験が積み重なることで、「自分は変われている」「やればできるんだ」という肯定的な感覚が芽生え始めました。

また、練習中に自分の演奏を客観的に分析する視点も養われました。「なぜここで詰まるのか?」「どうすればもっと良い音が出せるか?」と考える習慣がついたことで、課題を見つけ、それに対して具体的な対策を立てる力が身につきました。これは、演奏技術だけでなく、物事に対する問題解決能力や主体性といった、音楽以外の面にも良い影響を与えていると感じています。

演奏で得られた「主体性」と「充実感」

「なんとなく」から「狙いを持つ」練習へと意識を変えたことは、私の演奏を、そして私自身の内面を大きく変えました。以前は、他の上手な人と自分を比較しては落ち込み、「自分は才能がない」と諦めかけてしまうことがよくありました。しかし、今は「昨日の自分より、少しでも前に進むこと」に意識が向いています。他人との比較ではなく、自分自身の成長に目を向けられるようになったことで、練習へのモチベーションを前向きに維持できるようになりました。

また、練習に主体的に取り組むようになったことで、演奏そのものへの向き合い方も変わりました。楽譜に書かれた音符を追うだけでなく、「この音はどんな音色で弾こうか」「このフレーズはどんな風に表現したいか」と、自分の内面から湧き上がる表現欲求に耳を澄ませるようになりました。その結果、演奏すること自体が以前にも増して深く、充実したものになったと感じています。

もし今、あなたが練習しても成果が感じられず、漫然と時間を過ごしてしまっていると感じているのであれば、一度立ち止まって「今日の練習の狙いは何か?」と考えてみてはいかがでしょうか。練習の量だけでなく、質に意識を向けること、そして小さな目標を設定し、達成感を得る経験を重ねることが、きっと演奏との向き合い方を変え、あなた自身の自信へと繋がっていくはずです。