#演奏で変わった私

センスじゃない。音楽理論への苦手意識が、私の演奏を変えたきっかけ

Tags: 音楽理論, コンプレックス克服, 演奏練習, 自己肯定感, アドリブ

「楽譜通りしか弾けない自分」へのコンプレックス

私は長い間、音楽理論というものに苦手意識を持っていました。楽譜に書かれた音符を正確に追うことはできても、そこから一歩進んで「自分らしい表現」をしたり、誰かとセッションする際にアドリブで対応したりすることが全くできませんでした。

周りの上手な人たちは、楽譜がなくてもコードを聞いただけで演奏できたり、曲に合わせて自然に音を紡ぎ出したりしているように見えました。それはまるで、特別な「センス」がある人にだけ許された領域のように感じられ、「自分には才能がないんだ」と密かにコンプレックスを抱えていました。

なぜ、音楽理論が苦手だったのか

なぜ理論が苦手だったのかを振り返ってみると、いくつか理由があります。

まず、学生時代に少し触れたことはありましたが、退屈で難解な記号やルールにしか見えず、それが実際の演奏とどう結びつくのかが全く理解できませんでした。音楽の授業は座学で、演奏とは切り離された「勉強」というイメージが強かったのです。

また、「理論よりも感覚が大事」「結局はセンス」といった言葉を耳にすることも多く、理論を学ぶことの必要性を感じられずにいました。「もし理論を学んでも、センスがなければ意味がないのでは?」という思いもありました。

そのため、練習はひたすら楽譜を追うこと、技術的な精度を上げることばかりに終始しました。しかし、それだけでは演奏に深みが出ないこと、同じ曲でも弾くたびにどこか単調に感じられることに気づき始めました。特に、他の楽器とのアンサンブルで自分の役割が分からなくなったり、コード譜だけ渡されて「何か弾いてみて」と言われたときに何もできない自分に直面したりすると、強い無力感に襲われました。

小さな一歩が、理論との距離を縮めた

そんな状態から抜け出すきっかけになったのは、ある日、好きなアーティストの楽曲を「なぜこの響きは心地よいのだろう?」と考えてみたことです。これまでは「いい音だな」と感じるだけでしたが、そのときは少し立ち止まって分析してみたくなりました。

そのときに手にしたのが、専門書ではなく、初心者向けのとても分かりやすい解説サイトやYouTube動画でした。難しい言葉は避け、具体的な音の例をたくさん使って説明してくれるものを選びました。

そこで最初に知ったのは、「コード」の基本的な仕組みや、「スケール」がどんな響きを持っているかということでした。それらは、私がこれまで楽譜上で単なる記号として見ていたものに、「色」や「感情」のようなものが付与される感覚でした。

例えば、あるコードが「明るい響き」を持つのはなぜか、あるメロディーが「悲しく」聞こえるのはどの音を使っているからなのか、といったことが、理論を通して少しずつ見えてきたのです。それは「勉強」というより、まるで音楽の「秘密のコード」を解き明かしていくような、面白い体験でした。

「見える化」された音楽が、演奏を変えた

理論を学び始めたことで、私の演奏に対する考え方と実際の演奏は大きく変わりました。

まず、楽譜に書かれている音符だけでなく、その背後にあるコード進行やキー(調)といった構造を意識できるようになりました。これにより、単に音を並べるのではなく、曲全体の流れや響きを理解した上で演奏できるようになりました。結果として、演奏に立体感や深みが出てきたように感じます。

また、以前は全くできなかったアドリブにも、少しずつ挑戦できるようになりました。まずは基本的なスケールをコードに合わせて弾いてみることから始め、徐々に使える音の引き出しを増やしていきました。もちろん、すぐに上手くできるわけではありませんでしたが、「なぜこの音は合うのか(合わないのか)」が理論的に理解できるようになると、試行錯誤が楽しくなりました。

最も大きな変化は、音楽に対する向き合い方そのものです。以前は「センスがないからできない」と諦めていたことが、「理論を知れば理解できる、練習すればできるようになる」という希望に変わりました。自分が演奏している音楽が、単なる音の羅列ではなく、理論に基づいた美しい構造を持っていることを知ると、ますます興味が湧き、もっと深く知りたいと思うようになりました。

理論は「センス」ではなく、演奏を豊かにするツール

音楽理論は、決して特別な才能がある人だけのものではありませんし、「センス」の代わりになるものでもありません。それは、音楽という言語をより深く理解し、自分の演奏をより豊かにするための強力なツールだと今は感じています。

もちろん、全ての理論を完璧に理解する必要はありません。私もまだ学びの途中にいます。大切なのは、苦手意識に蓋をして諦めるのではなく、「なぜ?」という小さな疑問から一歩踏み出してみること、そしてそれを「勉強」としてではなく、自分の演奏をより面白くするための「ヒント」として捉えることです。

もしあなたが、かつての私のように「楽譜通りしか弾けない」「アドリブなんて無理」「自分にはセンスがない」と感じているなら、ほんの少しだけ、音楽理論の世界を覗いてみてはいかがでしょうか。それは、あなたの演奏だけでなく、音楽との関わり方、そして自分自身の可能性を広げる、素敵なきっかけになるかもしれません。完璧を目指さず、楽しみながら、一緒に音楽の奥深さを探求していきましょう。