#演奏で変わった私

「『何のために弾いているんだろう?』練習する意味を見失った私が、演奏を続ける理由を見つけるまで」

Tags: モチベーション, 練習, 音楽との向き合い方, 自己肯定感, 継続

導入:楽器に触るのが億劫になった日々

かつてはあれほど夢中だった楽器に触ることが、いつしか億劫に感じられるようになった時期がありました。仕事で疲れて帰宅し、練習時間を確保すること自体が重荷になり、「今日はいいかな」と楽器ケースに手を伸ばさない日が増えていきました。

周りの演奏仲間が着実にステップアップしているように見え、SNSで流れてくる素晴らしい演奏動画を見るたびに、自分の停滞感を突きつけられているような気持ちになりました。練習しても思い通りの音が出せない、新しい曲になかなか取り組めない。そんな状況が続くと、「何のために、こんなに苦しい思いをして演奏しているんだろう?」という疑問が、まるで心の底から湧き上がってくるかのように頭を占めるようになりました。

このサイトを読んでいる方の中にも、私と同じように、練習の意味を見失いかけたり、楽器と向き合うのがつらくなったりした経験がある方がいらっしゃるかもしれません。特に、学生時代のように自由に時間が使えない社会人になると、演奏との向き合い方も変わってきます。この記事では、私がどのようにしてその迷いや停滞期を乗り越え、演奏を続ける自分なりの理由を見つけられたのかをお話しさせていただきます。

モチベーションが枯渇した原因を探る

なぜ、あんなにも好きだった演奏への意欲が薄れてしまったのでしょうか。振り返ってみると、いくつかの要因が重なっていたように思います。

まず大きかったのは、「上達しなければならない」というプレッシャーでした。誰かに期待されているわけではないのに、自分で勝手に目標を設定し、それが達成できないことに強い焦りを感じていました。特に、特定の技術的な壁にぶつかり、どんなに練習しても乗り越えられないと感じた時は、深い無力感に襲われました。

また、演奏の目的が曖昧になっていたことも原因でした。以前は発表会やコンクールなど、明確な目標があったのですが、それがなくなると、「何を目指して練習しているんだろう?」という問いに答えられなくなりました。ただ漫然と練習時間をこなすだけになり、そこに喜びを見出せなくなっていったのです。

さらに、仕事の忙しさから練習時間が減り、そのことで自己嫌悪に陥る悪循環も生まれていました。「忙しいから仕方ない」と自分に言い訳をしながらも、「もっとやれるはずなのに」と責めてしまうのです。楽器に触る時間が減れば、当然ながら技術は維持できません。衰えを感じることも、さらにモチベーションを低下させる要因となりました。

立ち止まり、試してみたこと

このような状況から抜け出したくて、いくつか試したことがあります。

まず、少しだけ楽器から距離を置いてみました。これは勇気のいることでしたが、「練習しなければ」という強迫観念から一時的に解放されることで、かえって冷静に自分の気持ちと向き合う時間を持つことができました。

次に、いわゆる「練習」ではなく、ただ「好きな曲を弾く」という時間を設けました。譜面通りに正確に弾くことや、難しいフレーズに挑戦することは一旦忘れ、自分が心地よいと思える音を出すこと、純粋に音楽を楽しむことに焦点を当てました。昔弾いて楽しかった曲、今気分が良い曲。技術的な向上とは別の場所にある「楽しさ」を再発見する試みでした。

また、他の人の演奏を、以前のような「自分との比較」の視点ではなく、「どんな音楽を創っているのだろう?」という興味を持って聴くようにしました。プロの演奏はもちろん、アマチュアの演奏会に足を運んだり、多様なジャンルの音楽に触れたりすることで、「音楽そのものが持つ豊かさ」を改めて感じることができたのです。

そして、なぜ自分がそもそも楽器を始めたのか、子供の頃や学生時代の「好き」という純粋な気持ちを思い出そうとしました。人から褒められたいとか、上手くなりたいとか、そういう目標ができる前の、ただ「音を出すのが楽しい」「この曲が好きだから弾いてみたい」というシンプルな衝動です。

演奏を続ける「本当の理由」が見えてきた

これらの試行錯誤を通して、私は「演奏を続ける本当の理由」が、「上手くなること」や「誰かに認められること」だけではないことに気づき始めました。

確かに技術向上は演奏の一つの醍醐味ですが、それだけが目的になってしまうと、壁にぶつかった時に全てが嫌になってしまいます。私が演奏を通して本当に求めていたのは、技術的な完璧さではなく、音楽を通して自分自身の感情を表現すること、音そのものが持つ響きに耳を澄ませ、心地よさを感じること、そして、楽器と向き合う静かな時間を持つことでした。

他人との比較は意味がないと心底理解できたのもこの頃です。一人一人、楽器との出会いも、歩んできた道も、置かれている状況も違います。比べるべきは、昨日の自分や、過去の自分だけです。そして、比べることすら必要ないのかもしれません。ただ、「今の自分が、今の状況で、どれだけ音楽を楽しめるか」が最も大切なのではないかと思えるようになりました。

完璧を目指すのではなく、「この一音だけは大切に響かせよう」「このフレーズの歌い回しを工夫してみよう」といった、ごく小さな目標を持つことで、練習への向き合い方が変わりました。結果を求めすぎず、過程を楽しむことができるようになったのです。そして、「誰かに聴かせたい」という外向きの動機よりも、「自分が心からこの音楽を感じたい」という内発的な動機こそが、長く演奏を続けていく上で最も強力な原動力となることに気づきました。

演奏が教えてくれた、自分との向き合い方

演奏へのモチベーションを見失い、悩み、そして再び音楽と向き合えるようになるまでのプロセスは、私にとって演奏技術の成長以上に、自分自身の心と向き合う貴重な経験となりました。

完璧でなくても良い、停滞する時期があっても良い、モチベーションには波があることを受け入れる。練習できない自分を責めるのではなく、できる時にできることをやれば良い。そう思えるようになった時、演奏は再び「苦痛」ではなく「心の支え」となりました。仕事でどんなに疲れていても、短い時間でも楽器に触れると心が落ち着き、リフレッシュできるようになったのです。

演奏体験を通じて得られたのは、技術的なスキルだけではありません。困難にぶつかった時の対処法、立ち止まる勇気、そして何よりも、不完全な自分を受け入れ、それでも前に進もうとする小さな自信と自己肯定感です。音楽は、いつでもそこにあり、私が望む時に温かく迎え入れてくれる場所だと感じています。

悩んでいるあなたへ:続けることの価値

もし今、あなたが私と同じように、演奏する意味を見失いかけていたり、練習へのモチベーションが湧かずに悩んでいたりするなら、あなたは決して一人ではありません。多くの演奏者が、程度の差こそあれ、同じような壁にぶつかりながら音楽を続けています。

無理に「頑張ろう」と思わなくても良いのです。少し楽器から離れてみるのも良いでしょう。好きな曲だけを弾く時間を持つことから始めてみるのも良いかもしれません。大切なのは、音楽を「〇〇しなければならないもの」にしてしまわないことです。

演奏を通じて得られるものは、楽譜が読めることや難しいフレーズが弾けるようになることだけではありません。音楽を通して感じる喜び、悲しみ、安らぎ。楽器との対話を通じて知る、新しい自分の一面。そして、何よりも、あなた自身が音楽を愛する心を持っていること。それが、演奏を続ける一番の理由になり得ます。

焦らず、あなたのペースで、音楽との関係を築いていってください。演奏は、あなたの人生をより豊かにしてくれる、かけがえのない存在になるはずです。