#演奏で変わった私

目標がないまま練習していた私が、小さな目標設定で演奏が変わった話

Tags: 目標設定, 練習法, モチベーション, 上達, マインドセット

漠然とした練習と拭えない停滞感

楽器を始めてしばらく経ち、ある程度の基礎が身についてくると、「練習しているのに、いまいち上達している気がしない」という停滞感に悩まされる時期が訪れることがあるかと思います。私も、まさにその壁にぶつかっていました。

毎日楽器に触れてはいるものの、「今日の練習は何をしようか」という明確な目標がないまま、漠然とスケールを弾いたり、課題曲を最初から通してみたり。練習時間は確保しているのに、何をどこまでできるようになりたいのかが曖昧で、結果として「今日も特に変わらなかったな」と感じてしまうのです。

周りの友人が着実にレパートリーを増やしたり、難易度の高い曲に挑戦したりしているのを見るたび、「自分にはセンスがないのだろうか」「このまま続けていても意味がないのではないか」と、コンプレックスは深まるばかりでした。会社から帰宅して疲れた体で練習に向かうものの、この先の見えない状態が、さらにモチベーションを低下させていたように思います。

「目標設定なんて大げさだ」と思っていた頃

なぜ目標設定をしていなかったのか、今振り返るといくつか理由があります。一つは、「目標」という言葉に対して、「大きな演奏会で成功する」「プロになる」といった壮大なイメージしか持てず、「自分にはまだ早い、大げさだ」と感じていたことです。

また、「目標を立てて、もし達成できなかったら落ち込むだけだ」という恐れもありました。漠然としたままなら、「まあ、こんなものか」と自分を納得させられますが、具体的な目標を設定してしまうと、自分の実力不足を突きつけられるような気がしたのです。

しかし、この「なんとなく練習」を続けるうちに、演奏に対する「好き」という気持ちさえも薄れていくのを感じ始めました。「何かを変えなければ、本当に演奏をやめてしまうかもしれない」。そんな危機感が、私を動かすきっかけとなりました。

小さな目標設定がくれた「今日の達成感」

大きな目標は立てられなくても、まずは目の前の練習に焦点を当ててみることから始めました。その時に意識したのが、「小さな目標」を設定することです。

例えば、それまで漠然と弾いていたスケール練習なら、「今日は〇〇のスケールを、□□のテンポで、止まらずに3回完璧に弾く」といった具体的な目標に変えました。課題曲の練習なら、「この8小節の特定のリズムパターンを正確に弾けるようにする」「このフレーズの強弱の指示通りに演奏する」など、ごく狭い範囲に絞り込むようにしました。

最初は戸惑いもありましたが、この「小さな目標」を設定する習慣をつけていくうちに、驚くべき変化を感じ始めました。

まず、練習に対する集中力が格段に上がりました。何をどこまでやるかが明確なので、ダラダラと時間を過ごすことが減り、限られた時間の中でも密度の濃い練習ができるようになったのです。

そして何より大きかったのは、「今日の練習で、これができるようになった」という、ささやかながら確実な達成感を得られるようになったことです。これまで感じていた「何も変わらなかった」という感覚が、「少しだけ前に進めた」というポジティブな感覚に変わりました。

心理的な変化と演奏への好影響

この「小さな達成感」の積み重ねが、私の内面に変化をもたらしました。

他人の演奏と自分を比較して落ち込む時間は減り、「昨日の自分より、今日の自分はこれができるようになった」という、過去の自分との比較に意識が向くようになりました。これは、他人との競争ではなく、自分自身の成長に目を向けられるようになったということです。コンプレックスの多くは、他人との比較から生まれますが、目標設定によって自己成長に焦点が定まったことで、その呪縛から少しずつ解放されていきました。

また、「目標を立てて、達成する」という経験を繰り返すことで、「やればできるかもしれない」という自己肯定感が少しずつ育まれていきました。これが、さらに難しい目標に挑戦してみようという、前向きなモチベーションにつながっていきました。

演奏そのものにも、良い影響がありました。部分部分に焦点を当てて練習することで、曖昧だった箇所が明確になり、表現に自信が持てるようになったのです。全体を漠然と通すだけでは気づけなかった自分の弱点にも目が向き、それを改善するための具体的な対策を考えられるようになりました。

演奏が教えてくれた、人生における大切な視点

目標設定は、演奏の世界だけでなく、仕事や日々の生活にも応用できる、非常に汎用性の高いスキルだと感じています。漠然と日々を過ごすのではなく、「今日はこれを達成しよう」「今週中にこれを終わらせよう」と具体的な目標を持つことで、目の前のタスクに集中でき、達成感を得られる。このサイクルが、自己肯定感を高め、さらなる行動を促す原動力になることを、私は演奏を通して学びました。

もしあなたが今、「練習しているのに、何も変わらない」「どうせ自分には無理だ」と悩んでいるとしたら、一度「目標設定」というものを、難しく考えずに取り入れてみてはいかがでしょうか。

「完璧に弾く」ではなく「この一音だけ正確に鳴らす」。「一曲マスターする」ではなく「最初の4小節だけ譜面通りに弾く」。そんな、笑ってしまうほど小さな目標から始めてみるのです。

その小さな一歩が、きっとあなたの演奏への向き合い方、そして自分自身の見方を変えるきっかけになるはずです。演奏は、私たちに技術だけでなく、人生を豊かに生きるための大切なヒントをくれる存在なのだと、改めて感じています。