#演奏で変わった私

演奏力は「聴く力」だった。意識的に聴く習慣が、私を変えた話

Tags: リスニング, 聴く力, 上達, 練習法, モチベーション

「弾く練習」だけでは見えなかった壁

楽器を始めたばかりの頃は、「どれだけたくさん、正確に弾けるか」が上達のすべてだと思っていました。毎日コツコツと練習時間を確保し、与えられた楽譜をひたすら追う日々です。会社員として働きながら限られた時間での練習は大変でしたが、それでも「弾けば弾くほど上手くなるはず」と信じていました。

しかし、ある程度弾けるようになっても、どうも自分の演奏に納得がいかない時期が続きました。技術的には楽譜通りに弾けているはずなのに、プロや他の上手な人の演奏を聴くと、何かが根本的に違うと感じるのです。その「何か」が何なのか、自分では具体的に理解できませんでした。

「自分にはセンスがないのだろうか」「練習の仕方が間違っているのだろうか」といった漠然とした不安が募り、練習へのモチベーションが少しずつ揺らぎ始めました。楽譜を追うだけの練習は、次第に退屈で義務的なものになっていきました。

「なんとなく聴く」から「意識して聴く」へ

そんな停滞期に、ある経験豊かな演奏家の方が話していた「音楽家は、弾くことと同じくらい、あるいはそれ以上に『聴く』ことが大切だ」という言葉が心に留まりました。それまで私も音楽はよく聴いていましたが、それはあくまでBGMとして楽しむか、好きな演奏家の演奏を「すごいな」と感心する程度でした。つまり、「なんとなく聴いていた」のです。

その言葉をきっかけに、「聴くこと」を練習の一部として意識的に取り入れるようになりました。具体的には、次のようなことを試みました。

聴くことで変わった「弾き方」と「音楽との向き合い方」

これらの「聴く練習」を続けるうちに、驚くほど自分の演奏が変わっていくのを実感しました。

まず、自分の音に対する意識が劇的に変わりました。以前は「正しい音程とリズムで弾く」ことに精一杯でしたが、模範演奏を分析的に聴くようになったことで、「どんな音色で弾くか」「フレーズにどのような抑揚をつけるか」といった表現のニュアンスにも注意を向けられるようになりました。すると、同じ楽譜でも、より豊かで深みのある演奏ができるようになったのです。

また、自分の演奏の課題点が明確になったことで、練習がより効率的になりました。「ただ弾く」のではなく、「この部分の音色を模範演奏のように柔らかくしたい」「ここのリズムの跳ね方を改善したい」といった具体的な目標を持って練習に取り組めるようになったのです。限られた練習時間でも、以前より着実に成長を実感できるようになりました。

何より大きかったのは、音楽そのものに対する感じ方が変わったことです。以前は楽譜を通して音楽を見ていましたが、「聴く力」が鍛えられたことで、音楽がより立体的で感情豊かなものとして聞こえるようになりました。演奏者の息遣いや感情が伝わってくるようになり、音楽を聴くこと自体が以前よりもずっと深く、楽しい体験になったのです。この音楽をより深く理解し、感じられるようになったことが、演奏への意欲をさらに高めてくれました。

上達への隠れた鍵は、あなたの「耳」にある

かつては「センスがない」と諦めかけていた私ですが、「聴くこと」を意識的に練習に取り入れたことで、演奏の壁を越え、音楽をより深く楽しめるようになりました。聴く力は、特別な才能ではなく、誰でも意識と練習次第で磨くことができるスキルだと感じています。

もし今、演奏に行き詰まりを感じていたり、自分の演奏に納得できなかったりする方がいれば、「弾く」練習だけでなく、「聴く」ことにも意識を向けてみることをお勧めします。お気に入りの演奏家の音源を、いつもより少しだけ注意深く聴いてみてください。自分の演奏を録音して、客観的に聴いてみてください。

そうすることで、これまで気づかなかった新しい発見があるはずです。そして、その発見が、あなたの演奏を、そして音楽との向き合い方を、きっと変えてくれるはずです。演奏力は、「弾く力」だけでなく、あなたの「聴く力」によっても磨かれていくのだと、私は自身の経験を通して強く感じています。