#演奏で変わった私

演奏中の小さなミスが怖かった。焦りとの付き合い方を変えたら、演奏が安定した話

Tags: 演奏, ミス, 焦り, コンプレックス克服, マインドセット

はじめに:演奏中のミス、その後の焦りが怖かった

楽器を演奏されている皆さんの中に、演奏中に一度でもミスをすると、その後焦ってしまい、さらに演奏が崩れてしまう経験をしたことがある方はいらっしゃるでしょうか。私は、まさにそのタイプでした。特に、人前で演奏する機会や、誰かに聴かれているかもしれない練習中などでは、「ミスしちゃいけない」というプレッシャーから、小さなミスでも動揺し、その後立て直せなくなることがよくありました。

会社勤めをしながら限られた時間で練習している私にとって、せっかくの練習や演奏の機会でミスを連発してしまうことは、時間や労力が無駄になったような気がして、さらに落ち込む原因にもなりました。

ミスが怖い、焦りが止まらない負のループ

なぜ、私はこんなにもミスを恐れ、一度のミスで焦ってしまうのでしょうか。自己分析をしてみると、いくつかの理由が考えられました。

これらの気持ちが複雑に絡み合い、「ミスしてはいけない」という強いプレッシャーを生んでいました。そして、いざミスが起こると、「やっぱり」「どうしよう」という焦りが生まれます。指が思うように動かなくなったり、頭が真っ白になったり、さらに大きなミスを引き起こす。この負のループに陥るたび、演奏への自信を失っていきました。

焦りとの付き合い方を変えるためのアプローチ

この状況を打開したい一心で、私はいくつかの方法を試すようになりました。それは、単に技術練習を増やすというよりも、ミスや焦りに対する考え方(マインドセット)を変えることに重点を置いたアプローチでした。

1. ミスを「失敗」ではなく「情報」として捉える

まず意識したのは、ミスを「恥ずかしい失敗」や「自分の能力のなさの証明」と捉えるのをやめることです。ミスは、練習が足りない箇所や、体の使い方に無理がある箇所、あるいは精神的な弱さが露呈した箇所などを示してくれる貴重な情報だと考え直しました。

例えば、特定のフレーズで繰り返しミスをするなら、それは指の運びやリズム、あるいは楽譜の読み方自体に課題があるのかもしれません。本番で緊張してミスをするなら、それは本番慣れが必要だったり、精神的な準備が足りなかったりすることを示唆しています。

このように捉え方を変えることで、ミスをした瞬間に自己否定に陥るのではなく、「なるほど、ここに課題があるのか」と、次に繋げる思考ができるようになりました。

2. 練習に「止まらない」要素を取り入れる

普段の基礎練習や部分練習では、ミスのない完璧な演奏を目指すことも重要ですが、本番を想定した練習では、「止まらずに最後まで弾く」ということを意識的に取り入れました。

最初は、ミスをしてもそのまま弾き続けるのは気持ち悪く、つい止まってやり直してしまいましたが、慣れてくると、多少のミスがあっても音楽の流れを止めない、崩れたところからどう立て直すか、といったリカバリー能力が養われることを実感しました。

特に難しい曲や、苦手な箇所がある曲を練習する際には、まず「ゆっくりでも良いから最後まで弾き切る」ことを目標に設定し、慣れてきたら徐々にテンポを上げていくようにしました。この練習により、本番でミスをした際の精神的な耐性がつきました。

3. 演奏中の意識を「ミスしないこと」から「音楽を伝えること」へ

演奏中に「ミスしないように、ミスしないように…」とばかり考えていると、かえって指がこわばったり、音楽が硬くなったりします。そこで、意識を「いかに音楽を聴き手に届けるか」「この曲で何を表現したいか」という点にシフトするよう努めました。

演奏の前に、その曲の持つ雰囲気や感情、伝えたいメッセージなどを改めてイメージします。そして、演奏中は、指の動きや楽譜よりも、目の前の「音」や「響き」に意識を集中させるようにしました。

この意識転換は、すぐにできるものではありませんでしたが、練習の中で「音を聴く」習慣をつけたり、録音を聴き返して自分の演奏がどう響いているかを確認したりすることで、徐々に「音楽そのもの」に集中できるようになっていきました。すると不思議なことに、「ミスしないこと」への執着が薄れ、結果的にミスが減り、たとえミスをしても冷静に対処できるようになっていきました。

4. 焦りを感じた時の対処法を持つ

演奏中に焦りを感じた時に、自分なりの対処法を用意しておくことも有効でした。私の場合は、

といった、シンプルですが効果のある方法を実践しました。これは練習中にも意識して行うことで、本番でも自然と体が反応するようになっていきました。

焦りを手放したら、演奏と自分に安定感が生まれた

これらのアプローチを継続していくうちに、私の演奏は大きく変わりました。

まず、演奏中のミスに対する恐怖心が和らぎました。ミスをしても、「あ、ここね」と受け止め、次の音に集中できるようになり、負のループに陥ることが激減しました。

次に、焦ることが減り、演奏全体に落ち着きと安定感が生まれました。一つ一つの音をより丁寧に扱えるようになり、音楽の流れもスムーズになりました。

そして何より大きかったのは、演奏そのものへの集中力が高まったことです。ミスや評価への不安から解放され、純粋に音楽と向き合える時間が増えました。その結果、演奏に込められる表現の幅が広がり、以前よりも「自分らしい」演奏ができるようになったと感じています。

演奏中のミスや焦りは、誰しもが経験する壁かもしれません。しかし、その壁は乗り越えられないものではありません。考え方や練習方法を少し変えるだけで、演奏中の心理状態は大きく変わり、それが演奏そのものの質を向上させることに繋がることを、私自身の経験を通して実感しています。もし今、同じような悩みを抱えている方がいらっしゃるなら、少しでもこの記事が、その壁を乗り越えるためのヒントになれば嬉しいです。