#演奏で変わった私

「練習してるのに、何も変わらない」そう感じた私が、成長の壁を越えるまで

Tags: 練習, 上達, 成長, コンプレックス, マインドセット

練習しても「何も変わらない」と感じる日々

楽器演奏に打ち込む多くの方が経験する壁の一つに、「練習しているのに、上達している実感が得られない」という悩みがあるのではないでしょうか。毎日時間を確保して、時には疲れた体で楽器に向かっても、自分の演奏が昨日、一週間前、一ヶ月前と比べて本当に良くなっているのか、自信が持てなくなる瞬間があるかもしれません。

特に、働きながら演奏を続けている方にとっては、限られた時間をやりくりして練習しているからこそ、「この努力は報われているのだろうか」という疑問が頭をよぎることもあるでしょう。周りの演奏者の輝かしい成長をSNSなどで目にするたび、「自分だけが停滞しているのではないか」と感じ、焦りや劣等感を抱いてしまうこともあります。

私も、かつてまさにこの状態に深く悩んでいました。ある程度の期間演奏を続けているのに、特定の技術的な壁が越えられない、表現に深みが出ない、といった悩みが常にあり、どれだけ練習時間を増やしても、効果を感じられない時期が長く続いたのです。「自分にはセンスがないのかもしれない」「もうこれ以上は無理なのではないか」と、演奏に対するモチベーションが低下し、楽器に触るのが億劫になることもありました。

停滞を「成長の壁」として捉え直す

この「何も変わらない」と感じる停滞期から抜け出すために、私が最初に取り組んだのは、自分の練習や演奏に対する考え方を見直すことでした。それまでの私は、ただ漠然と長時間練習したり、難しいフレーズを繰り返し弾いたりすることに終始していました。しかし、それでは根本的な原因にアプローチできていなかったのです。

まず、私は「成長」の定義を改めて考えるようにしました。以前は、目に見えて速く弾けるようになったり、難しい曲が弾けるようになったりすることだけを「成長」だと考えていました。しかし、それだけが全てではありません。音の響き方が少し変わった、特定のパッセージが以前よりスムーズになった、曲に対する解釈が深まった、といった小さな変化も、確かに成長の一部なのです。

次に、自分の演奏を客観的に捉える方法を取り入れました。スマートフォンの録音機能を使って練習の様子を録音し、後から聴き返すようにしたのです。最初は自分の下手さに落ち込むこともありましたが、繰り返すうちに、以前は気づけなかった癖や課題が見えてくるようになりました。同時に、ほんのわずかですが、改善された点にも気づけるようになり、「全く何も変わっていないわけではない」という事実に気づくことができました。

具体的な変化を生むためのアプローチ

具体的な練習方法においても、いくつかの変化を取り入れました。

  1. 目標の具体化: 漠然と「上手くなりたい」ではなく、「〇〇という曲の、この部分の音をクリアにする」「△△というスケールを、指定された速さで滑らかに弾けるようにする」など、一回の練習や一週間の練習で達成したい具体的な目標を設定しました。
  2. 「なぜできないか」の分析: できない箇所にぶつかったとき、ただ繰り返すのではなく、「なぜここでつまずくのか」「原因は体の使い方にあるのか、指の動きにあるのか、呼吸にあるのか」など、原因を分析する時間を設けるようにしました。
  3. 練習の質の向上: 長時間練習するのではなく、短時間でも集中して、設定した目標に対して意識的に取り組むことを心がけました。メトロノームを遅くしたり、部分練習を徹底したりと、非効率だった練習を見直しました。
  4. インプットの変化: 他の演奏家の音源を聴く際に、ただ楽しむだけでなく、どのような音色や表現をしているのかを意識的に聴くようにしました。時には、楽譜を見ながら音源を追うことで、自分の演奏との違いに気づくこともありました。

これらの取り組みは、すぐに劇的な変化をもたらしたわけではありませんでした。しかし、小さな目標をクリアしていくたびに、少しずつ達成感が得られるようになり、「何も変わらない」という絶望感は薄れていきました。練習に対する向き合い方が、「やらなければならないこと」から「自分の演奏を探求する時間」へと変わっていったのです。

成長を実感し、演奏の喜びを取り戻す

停滞期を「成長の壁」として捉え、試行錯誤を続けた結果、少しずつですが自分の演奏に変化が現れていることを実感できるようになりました。以前は苦手だったパッセージがスムーズに弾けるようになったり、表現したいニュアンスを音に乗せられるようになったりといった具体的な変化に加え、何よりも大きかったのは、自分の演奏に対する肯定感が生まれたことです。

完璧ではないけれど、確実に前に進んでいる。その実感は、演奏を続ける上で大きな原動力となりました。他人との比較ではなく、過去の自分との比較で成長を測るようになったことも、心の安定につながりました。

「練習してるのに、何も変わらない」という感覚は、決してあなた一人だけが抱える悩みではありません。それは、次のレベルへ進むための、いわば「成長痛」のようなものかもしれません。大切なのは、そこで立ち止まらず、視点を変え、アプローチを変えてみることです。

もし今、あなたが演奏の停滞期に悩んでいるとしたら、まずは自分の「成長」の定義を見直したり、練習方法を少し変えてみたりすることから始めてみてはいかがでしょうか。その試行錯誤の過程こそが、あなたを次のレベルへと導き、演奏から再び大きな喜びを得るための鍵となるはずです。演奏体験を通じた自己変革は、決して直線的な道ではなく、こうした壁を乗り越えるたびに深まっていくのだと、私は自分の経験を通して感じています。