「演奏の「引き出し」が増えたら、世界が変わった話」
いつも同じような演奏になってしまう悩み
楽器をある程度弾けるようになると、楽譜通りに演奏することはできるようになります。でも、どこか自分の演奏が単調に感じたり、いつも同じようなフレーズばかりを使ってしまったりと、マンネリを感じることはないでしょうか。
私自身、以前はまさにそうでした。技術的には問題なく弾けるはずなのに、なぜか自分の演奏に「色」がない。他の人の演奏を聴くと、同じ曲でも表現の幅が驚くほど広い。それに比べて、自分の演奏はいつもテンプレート通り。
「自分にはセンスがないのかもしれない」「これ以上、表現力を磨くのは無理なのだろうか」
そんなコンプレックスを抱え、演奏へのモチベーションが下がる時期もありました。特に、社会人になって練習時間が限られる中、同じような練習を繰り返しているだけのように感じ、上達している実感を持てずに悩んでいました。
マンネリを打破するために始めたこと
このマンネリから抜け出したい、もっと豊かな表現ができるようになりたいという思いから、私はいくつか新しいことに挑戦してみることにしました。
まず一つ目は、「幅広いジャンルの音楽を聴くこと」です。普段自分が演奏するジャンル以外の音楽、例えばクラシックを演奏するならジャズやフュージョンを、ロックを演奏するならブルースやファンクを意識して聴くようにしました。最初は unfamiliar な響きに戸惑いましたが、異なるジャンル特有のリズムやメロディー、コード進行のパターンがあることに気づき、新鮮な刺激を受けました。
二つ目は、「簡単なアレンジや耳コピに挑戦すること」です。知っている曲を楽譜通りに弾くだけでなく、少しだけメロディーを崩してみたり、コードを置き換えてみたりする練習を取り入れました。また、好きな曲を耳コピして、その中に使われているフレーズやリズムを分析する時間も作りました。最初は全く歯が立たなかったのですが、少しずつ音を拾えるようになったり、コード進行のパターンが見えてきたりすると、大きな喜びを感じました。
三つ目は、「音楽理論の基本を学び直すこと」です。学生時代に少し触れた程度でしたが、改めてコードの機能やスケールの使い方などを体系的に学び始めました。これは少し難しく感じることもありましたが、音楽を「聴く」だけでなく「理解する」ためのツールとなり、耳コピやアレンジのヒントを与えてくれました。
そして四つ目は、「他の楽器奏者と交流すること」です。オンラインのコミュニティに参加したり、友人と軽いセッションをしたりする機会を意識的に増やしました。自分一人で練習しているだけでは気づけなかったリズムのずれや、他の楽器との相互作用によって生まれる新しい表現の可能性を知ることができました。
試行錯誤の先にあった変化
これらの新しい取り組みは、最初から順調だったわけではありません。幅広い音楽を聴いても、自分の演奏にどう活かせば良いのかすぐに分からなかったり、耳コピや理論学習に行き詰まったりすることもありました。
それでも、完璧を目指すのではなく、「まずは一つだけ、今日の練習に新しい要素を取り入れてみよう」という軽い気持ちで続けてみました。例えば、「この曲のサビのメロディーを、少しだけ装飾してみよう」「今日聴いたジャズの曲のリズムパターンを、簡単な童謡で試してみよう」といった具合です。
すると、少しずつですが、確実に変化が現れ始めました。指の動きだけでなく、音楽の構造や響きに対する理解が深まったことで、同じ楽譜を見ても以前とは違った解釈ができるようになったのです。アドリブフレーズの引き出しが増え、アレンジのアイデアが浮かびやすくなりました。他の楽器と音を合わせる際に、自分の音をどう出すとより響きが豊かになるのかを考えられるようになりました。
何よりも大きかったのは、演奏すること自体が再び心から楽しいと思えるようになったことです。いつも同じ道を辿るのではなく、新しい道を探求するワクワク感が生まれたのです。
演奏の「引き出し」が増えたことで見えた新しい景色
演奏の「引き出し」が増えたことで、私の音楽の世界は一気に広がりました。以前は楽譜に書かれた音符しか見えていなかったのが、その音符の背景にある音楽理論や、異なるジャンルでの使われ方など、多角的な視点を持つことができるようになったのです。
これは、単に技術が向上したというだけでなく、表現者としての自信につながりました。自分の演奏に「色」を加えられるようになったことで、「この曲を自分らしく演奏したい」という意欲が湧き、聴いている人に何かを伝えたいという思いが強くなりました。
もし、あなたが今、「いつも同じような演奏になってしまう」「自分の演奏はつまらないかもしれない」と悩んでいるのであれば、それはもしかしたら、演奏の「引き出し」を増やすタイミングかもしれません。
新しい音楽に触れる、簡単なアレンジを試してみる、少しだけ理論を学んでみる、他の楽器奏者と交流してみる。どれも最初は小さな一歩かもしれません。しかし、その一歩が、あなたの演奏に新しい風を吹き込み、音楽の世界を大きく広げてくれるはずです。
演奏を通して、表現する喜びを再び見つけ、自分らしい音楽を奏でられるようになることを願っています。