「演奏中、つい別のことを考えてしまう」集中力散漫を乗り越えて変わった私の演奏
「練習してるのに、なんだか頭に入ってこない」集中できない自分への苛立ち
社会人になり、学生時代のようにまとまった練習時間が取れなくなってから、私はある悩みを抱えるようになりました。それは、「演奏中に、つい別のことを考えてしまう」ということです。
仕事の締め切りのこと、今日の夕食のこと、SNSで見かけた些細な出来事。せっかく楽器を持っていても、すぐに頭の中は雑念でいっぱいになってしまうのです。体は演奏していても、意識は全く別の場所にいるような感覚。楽譜を目で追ってはいても、音が素通りしていくような、そんな練習が続きました。
「これではいくら練習しても意味がない」「せっかく時間を作ったのに、全く集中できないなんて、自分はなんてダメなんだろう」
他の人はきっと、短い時間でも集中して質の高い練習をしているのだろうと、勝手に他人と比較しては落ち込みました。短い時間しか取れないのに、その貴重な時間さえ無駄にしているように感じ、自己肯定感は下がる一方でした。演奏すること自体が、集中できない自分を突きつけられる苦痛な時間に変わりつつあったのです。
雑念の正体と向き合うことから始めた試行錯誤
このままではいけない、と強く感じた私は、まず「なぜ集中できないのか」その原因と向き合うことにしました。単に疲れているからなのか、それとももっと根本的な問題があるのか。
しばらく観察してみると、気がついたことがいくつかありました。
- 練習場所に行くまでの電車の中や、直前に仕事で嫌なことがあった後など、頭の中に雑念が残っている状態で楽器を手に取ることが多い。
- 完璧に弾こう、間違えないようにしよう、というプレッシャーが強いと、かえって別のことが頭をよぎりやすい。
- 漠然と「練習しなきゃ」と思っているだけで、その練習で何を達成したいのか、明確な目標がない。
- 休憩中にスマートフォンを見ると、そのまま集中力が途切れてしまう。
これらの観察から、集中できないのは単なる「意思の弱さ」ではなく、練習に入るまでの準備や、練習中の意識の向け方、そして「完璧」を求めるマインドセットが関係しているのではないか、と考え始めました。
そこで、いくつか具体的な対策を試みることにしました。
- 練習前の「準備時間」を設ける: 楽器を手に取る前に、数分間静かに座って呼吸を整えたり、今日の練習で取り組む箇所や目標を頭の中で整理したりする時間を作るようにしました。これにより、外からの情報や雑念を一旦リセットする意識を持ちました。
- 小さな目標を設定する: 漠然と曲を通すのではなく、「この4小節の特定のフレーズを、指定のリズムで弾く」「ここのダイナミクスを意識する」といった、その日の練習で達成したい小さな目標を明確にしました。これにより、脳がその目標に意識を集中しやすくなりました。
- 「完璧」ではなく「今できること」に焦点を当てる: ミスを恐れるあまり集中力が途切れることが多かったため、「間違えても良い。大切なのは、次の音にどう繋げるか、どのように音楽を進めるかだ」と考えるように意識を変えました。完璧な演奏よりも、今この瞬間の音に耳を傾けることに意識を向けました。
- 物理的な環境を整える: スマートフォンは視界に入らない場所に置く、練習場所の片付けをするなど、気が散る要素を可能な限り排除しました。
集中力の変化が、演奏と人生にもたらしたもの
これらの試みを続けるうちに、少しずつ変化が現れ始めました。最初は数分も持たなかった集中力が、10分、15分と続くようになりました。もちろん、全く雑念が浮かばなくなるわけではありません。それでも、「あ、また別のことを考えていた」と気づいたら、自分を責めるのではなく、「戻ってきた、戻ってきた」と優しく意識を演奏に戻す練習を繰り返しました。
集中できる時間が増えると、練習の密度が濃くなり、短時間でも以前より確実に上達を実感できるようになりました。楽譜の音符を追うだけでなく、フレーズの繋がりや響き、音色の変化といった、より深い部分に意識を向けられるようになったのです。演奏が「音を出す作業」から、「音楽と対話する時間」に変わっていきました。
そして驚いたのは、演奏で培った集中力が、日常生活にも良い影響を与え始めたことです。仕事中も、一つのタスクに集中する時間が長くなり、効率が上がりました。また、何か困難な問題に直面したときも、すぐに諦めるのではなく、「まずは目の前のことに集中して取り組んでみよう」と、演奏中に雑念と向き合うように、冷静に課題と向き合えるようになったのです。
「集中」は特別な才能ではなく、育てられる力だった
以前の私は、集中力は生まれ持った才能のようなもので、自分にはそれが欠けていると思っていました。しかし、演奏を通じて、集中力は意識的に育て、高めていける力なのだと学びました。完璧を目指すのではなく、今の自分にできることから始め、小さな試みを重ねることで、着実に変えていくことができるのです。
演奏中に別のことを考えてしまうという悩みは、多くの演奏者が経験することではないでしょうか。もし今、あなたが同じように集中力散漫に悩んでいるとしたら、それは決してあなただけではありません。そして、集中力は、演奏の質を高めるだけでなく、あなたの内面を整え、日常生活をより豊かにするための力になり得ます。
私の演奏は、集中力と向き合ったことで、技術だけでなく、音楽への向き合い方、自分自身との向き合い方が大きく変わりました。「#演奏で変わった私」と言える、大切な変化の一つです。この経験が、あなたが集中力という課題と向き合い、演奏を、そしてあなた自身をもっと好きになるための、小さな一歩となれば幸いです。