#演奏で変わった私

アンサンブルで自信が持てなかった私が、音で仲間と「対話」できるようになった話

Tags: アンサンブル, 協調性, コミュニケーション, 演奏仲間, 自信喪失, 克服, マインドセット, 社会人演奏

アンサンブルが苦手だった過去

学生時代から趣味で楽器を続けていますが、特に社会人になってからアンサンブルに参加する機会が増えました。しかし、正直なところ、私はアンサンブルが苦手でした。

個人練習でならある程度満足のいく演奏ができても、複数の楽器が加わると途端に自分の音が小さく感じられたり、逆に周りの音を聴きすぎたりして、どうバランスを取れば良いか分からなくなるのです。他のパートの人が淀みなくフレーズを重ねているのを聴くと、「自分だけテンポがずれているのではないか」「音程がおかしいのではないか」と不安になり、自信を失っていくばかりでした。

特に、自分より経験が豊富だったり、積極的に意見を言ったりするメンバーと一緒になると、ますます萎縮してしまい、言われた通りに弾くことしかできなくなります。自分のパートをただこなすだけで精一杯になり、音楽として他のパートとどう関わっていくか、あるいは自分のパートでどう表現したいかといったことまで考える余裕は全くありませんでした。

練習後には決まって、「今日も何もできなかった」という後悔と、「自分はアンサンブルに向いていないのではないか」というコンプレックスが募りました。まるで、自分だけが音楽という会話に参加できていないような孤独感を感じていたのです。

「合わせる」ことの本当の意味を知る

そんな状態が続いていたある日、練習後に指揮者の方がかけてくださった言葉が、私のアンサンブルに対する考え方を大きく変えるきっかけになりました。

「アンサンブルは、ただ音を『合わせる』ことだけが目的ではありません。それぞれのパートが互いの音を『聴き合い』、まるで会話をするように音楽を『創り上げていく』プロセスなのです。」

その時まで、私は「合わせる」という言葉を「他の人と同じように弾くこと」「ずれないようにすること」だと捉えていました。しかし、指揮者の方の言葉は、「聴き合い」「創り上げていく」という、より能動的で相互的なコミュニケーションの重要性を教えてくれたのです。

音で「対話」する練習を始める

この気づきを得てから、私はアンサンブルへのアプローチを変えることにしました。

まず、自分の音を出すことだけに集中するのではなく、意識的に周りの音を「聴く」ことから始めました。特に、自分のパートと旋律を共有している楽器や、リズムの土台を支える楽器の音に耳を澄ませるようにしました。最初は難しかったのですが、全体像を捉えようとすることで、自分の音がその中でどのような役割を担っているのかが見えてくるようになったのです。

次に、「音で対話する」ことを意識しました。例えば、他のパートが盛り上がってきたら、自分のパートもそれに呼応するように音量を少し増やしてみる。あるいは、相手のフレーズの終わりに寄り添うように自分の音を重ねてみる、といった具合です。これは楽譜に書かれていること以上の、その場の空気や他のメンバーの表現を受け止めて、自分の音で返すという試みでした。

最初はぎこちなく、時には失敗もしましたが、他のメンバーが私の変化に気づき、笑顔で応じてくれたり、「今の良かったね」と声をかけてくれたりすることも増えました。特に印象的だったのは、あるフレーズで他のパートとユニゾンになった際、互いの音を聴き合ったことで、まるで一つの楽器が鳴っているかのような一体感が生まれた瞬間です。それは、単に「合った」という感覚ではなく、音が溶け合い、響き合ったという感動的な体験でした。

アンサンブルが私にもたらした変化

音で「対話」することを意識するようになってから、私のアンサンブル演奏は大きく変わりました。

まず、周りを「聴く」ことで、自分の音を出すことへの不安が軽減されました。全体の中での自分の位置づけが分かることで、無闇に萎縮したり、逆に周りを気にせず突っ走ったりすることが減り、自信を持って音を出せるようになったのです。

また、「対話」を試みる過程で、他のメンバーとのコミュニケーションも円滑になりました。音を通して互いの意図を汲み取ろうとすることで、音楽的な結びつきが深まり、アンサンブルが単なる練習の場ではなく、仲間と共に音楽を創造する楽しい時間へと変わっていきました。

そして何より、音楽の聴こえ方が全く変わったことが、私にとって最も大きな変化でした。以前は自分のパートしか聴こえていなかったように思いますが、今は複数の音が織りなすハーモニーや、それぞれのパートが持つ個性、そしてそれらが一体となって生まれる豊かな響きを、全身で感じられるようになったのです。

アンサンブルにおける私のコンプレックスは、「合わせること」への過度な意識と、他のパートとの関わり方を知らなかったことから生まれていました。「音で対話する」という視点を持つことで、私はその壁を乗り越え、アンサンブルの本当の楽しさを知ることができました。

もし、あなたがアンサンブルに苦手意識を感じているのであれば、ぜひ「音で対話する」ことを意識してみてください。他のパートを聴き、それにどのように応えるか、あるいは自分の音でどのように提案するかを考えてみるのです。そうすることで、アンサンブルが、単に正確に弾くことではなく、仲間と共に音楽という美しい言語で語り合う、かけがえのない時間へと変わるかもしれません。そして、それはきっと、あなたの演奏だけでなく、人との関わり方や自分自身の捉え方にも、良い影響をもたらしてくれるはずです。