#演奏で変わった私

「『もっと〇〇だね』と言われるのが怖かった」批評との付き合い方を変えたら、演奏が深まった話

Tags: 批評, フィードバック, コンプレックス, メンタル, マインドセット

他者からの批評と、かつて抱えていたコンプレックス

演奏を続けていると、指導の先生、一緒に演奏する仲間、あるいは聴いてくれた友人や家族から、さまざまなフィードバックをもらう機会があります。「ここの音程が少しずれているね」「もっとこういう風に表現すると良くなるよ」「あのフレーズはもう少しテンポが速い方があなたの個性が出るかも」など、内容は多岐にわたります。

褒められるのはもちろん嬉しいですし、素直に受け入れられます。しかし、中には耳の痛い指摘や、自分では気づけなかった演奏の欠点に関するコメントもあります。正直なところ、かつての私はこうした「批評」を聞くのがとても怖く、苦手でした。

なぜなら、批評されることは「自分の演奏が否定された」ように感じられたからです。一生懸命練習したつもりなのに、まだまだ足りない、センスがない、自分は駄目だ、そういったネガティブな感情が湧き上がってきました。時には、相手に対して反発心を感じたり、「どうせ自分には無理だ」と諦めそうになったりすることもありました。

特に、目標としている演奏家や、自分よりずっと上手な人からの指摘は、自分の実力のなさを突きつけられているようで、強いコンプレックスの源になっていました。「あの人のように自然に弾けない」「なぜ自分は簡単なこともできないのだろう」と落ち込み、次に演奏する機会が怖くなることもありました。

批評を成長の糧に変えるための試行錯誤

こうした「批評恐怖症」のような状態から抜け出すため、私はいくつかのことを試みました。最初は、頭では「成長のために必要なアドバイスだ」と理解しようとしても、感情が追いつかず、なかなかうまくいきませんでした。

ある時、とある演奏家のインタビュー記事を読んだことが、大きな転機になりました。その方は、「批評は、自分の演奏をより良くするためのヒントが詰まった宝箱のようなものだ」と話していました。そして、「宝箱を開けるかどうかは自分次第。もし今必要なければ、一旦しまっておいて、またいつか開けてみれば良い」というような内容を語っていました。

この考え方に触れ、私は「批評をすぐに全て吸収しなければならない」というプレッシャーから解放されたような気がしました。そこで、私は批評に対して以下の3つのステップを試みるようになりました。

  1. 一旦、感情を切り離して言葉だけを受け止める: 耳の痛い言葉でも、まずは「こういう意見があるんだな」と事実として受け止め、その瞬間の感情(落ち込み、怒りなど)に囚われすぎないように意識しました。可能であれば、メモを取るようにしました。

  2. 言葉の裏にある意図を考える: 「もっと〇〇だね」という指摘は、一体何を意図しているのだろうかと考えるようにしました。単に技術的な問題なのか、音楽的な表現に関する提案なのか、あるいは別の可能性を示唆しているのか。相手がなぜそう言ったのか、その背景にある意図を想像する努力をしました。

  3. 試してみて、自分に合うか判断する: 受け止めた批評の内容を、実際に自分の練習や演奏で試してみることにしました。言われた通りに弾いてみたり、提案された表現を取り入れてみたりします。ただし、全てが自分に合うとは限りません。試した結果、しっくりこなければ無理に取り入れる必要はないと割り切ることにしました。自分なりにアレンジしたり、今回は見送ったりする勇気も必要だと考えるようになりました。

この3つのステップを実践する中で、私の意識は徐々に変わっていきました。批評は自分を否定するものではなく、自分の演奏を客観視するための貴重な情報源だと捉えられるようになったのです。

批評との付き合い方を変えた先に得られたもの

批評に対する考え方を変えてから、私の演奏と向き合う姿勢は大きく変わりました。以前は、指摘を恐れて無難な演奏を選びがちでしたが、今では積極的に新しい表現や技術に挑戦できるようになりました。なぜなら、もしうまくいかなくても、それがまた次の批評や改善へのヒントになると考えられるようになったからです。

また、批評を個人的な攻撃としてではなく、建設的な意見として受け止められるようになったことで、指導者や演奏仲間とのコミュニケーションもよりスムーズになりました。お互いの演奏について率直に話し合える関係性は、一人で悩んでいた時には得られなかった大きな支えとなっています。

批評との付き合い方を変えたことは、演奏技術の向上だけでなく、人間的な成長にも繋がったと感じています。仕事や日常生活の中でも、他者からのフィードバックに対して冷静に耳を傾け、自分の成長に活かそうというマインドセットが身につきました。

もちろん、今でも全ての批評をすぐに受け入れられるわけではありませんし、落ち込むこともあります。しかし、「これは宝箱の鍵かもしれない」と考えて一旦持ち帰り、時間をおいて冷静に考えることができるようになりました。

かつて、批評を聞くのが怖くてコンプレックスを抱えていた私ですが、その向き合い方を変えたことで、演奏はより奥深くなり、自分自身も少しだけ強くなれたと感じています。もし、あなたも他者からの批評に悩んでいるとしたら、その言葉を「自分への否定」ではなく、「自分を成長させるためのヒント」として捉え直すことから始めてみてはいかがでしょうか。必ずしもすぐに全てを受け入れる必要はありません。あなたにとって必要な「宝物」だけを、あなたのペースで見つけていけば良いのです。