#演奏で変わった私

「学生の頃からやってる人には敵わない」社会人からの楽器演奏。引け目を乗り越え、自分らしいペースを見つけた話

Tags: 社会人, 楽器演奏, コンプレックス, 上達, 継続

「学生の頃からやっている人には敵わない」――社会人になってから楽器を始めた多くの方が、こうした引け目や焦りを感じたことがあるのではないでしょうか。私もまさにそうでした。

私は、社会人になって数年経ってから、ずっと憧れていた楽器を始めました。レッスンに通い始めたものの、周りには学生時代から何年も経験している方ばかり。先生の教え方も、基礎がある前提のように感じられ、簡単なはずのスケール一つ満足に弾けない自分に、すぐにコンプレックスを抱くようになりました。

学生経験者との差が「引け目」に変わる瞬間

レッスンでの出来事や、SNSで目にする同年代の素晴らしい演奏に触れるたび、「もっと早く始めていれば」「自分には才能がないんじゃないか」という思いが募っていきました。学生時代から部活やサークルで毎日練習していた人たちと比べると、経験年数も、積み重ねてきた練習量も圧倒的に違います。仕事の合間を縫って練習時間を確保するのも大変で、思うように上達しない現実に直面するたびに、モチベーションが低下していくのを感じました。

「どうせ今から頑張っても、あのレベルには一生届かないのではないか」そんなネガティブな考えが頭を占めるようになり、楽器に触れるのが億劫になっていったのです。

比較対象を「他人」から「過去の自分」へ

この負のスパイラルから抜け出すきっかけになったのは、ある時ふと、「私は何のためにこの楽器を始めたんだっけ?」と自分に問いかけたことです。思い出したのは、純粋にその音色が好きで、自分で奏でてみたいと思った最初の衝動でした。他人と比べて優劣をつけるためではなく、自分の内側から湧き上がる興味や喜びのためだったはずです。

そこから私は、意識的に比較対象を変える努力を始めました。比べるのは、周りの上手な人ではなく、「昨日の自分」「一週間前の自分」です。ほんの少しでも前に進めていればOK、という考え方に切り替えました。

また、限られた練習時間を最大限に活用するために、目標を細分化しました。以前は漠然と「上手くなりたい」と思っていただけですが、例えば「今日はこのフレーズのテンポを上げる」「来週までにこの曲を譜読みする」といった具体的な目標を設定することで、短時間でも集中して取り組めるようになり、達成感も得やすくなりました。

「自分らしいペース」の発見

さらに重要な変化は、「完璧を目指す」というプレッシャーを手放したことです。社会人の練習時間は限られています。仕事で疲れている日もあるでしょう。そんな日は、無理に長時間練習するのではなく、短い時間でも好きな曲を気楽に弾いてみる、音源を聴いてみる、楽譜を眺めるだけでも良い、と自分に許可を出しました。

学生のように毎日何時間も練習できなくても、週に数時間でもコンスタントに続けること。そして、上手くいかない日があっても自分を責めすぎないこと。この「自分らしいペース」を見つけたことで、楽器演奏は再び私にとって、義務ではなく、日々の生活に彩りを与えてくれる楽しみへと変わっていったのです。

演奏が教えてくれたこと

社会人になってから楽器を始めた経験は、私に多くのことを教えてくれました。他人と比較することの無意味さ、自分自身の成長を認めることの大切さ、そして何よりも「継続すること」そのものが持つ価値です。

「もっと早く始めていれば」という後悔は、今でも全くなくなったわけではありません。しかし、それはもう引け目ではなく、「これからも長く続けていこう」という未来へのモチベーションに変わりました。

もしあなたが、社会人になってから楽器を始め、周りの経験者との差に悩んだり、上達しない自分に落ち込んだりしているなら、一人ではないことを知ってください。そして、比べるべきは他人ではなく、過去の自分であること、そして、あなたのペースで楽しみながら続けることに、何よりも価値があることを思い出していただけたら嬉しいです。

自分らしいペースで、音楽と共に歩む道のりは、きっとあなた自身を豊かにしてくれるはずです。