「『センスがないと無理』アドリブへの苦手意識を克服し、演奏の可能性を広げた話」
「アドリブなんて、自分には縁のないものだと思っていました」
私は、小さい頃から楽譜通りに正確に弾く練習ばかりをしてきました。それはそれで楽しかったのですが、大人になってから、楽譜を見ずに自由に音を紡ぐ「アドリブ演奏」の世界があることを知り、衝撃を受けました。ジャズやブルース、フュージョンなど、好きな音楽には必ずと言っていいほどアドリブがあり、その自由さや表現力に強く惹かれました。
一方で、「自分には絶対に無理だ」とも感じていました。楽譜に書かれた音を追うのは得意でも、真っ白な状態から音を選んでいくなんて、まるで別の能力が必要なように思えたのです。周りのアドリブができる人たちは、まるで魔法使いのように見えました。「あれは特別な人、センスのある人にしかできないことだ」と決めつけ、自分には縁のないものとして遠ざけていました。
楽器仲間と集まった際、軽いセッションのような流れになった時も、私は決まったフレーズしか弾けず、場についていけませんでした。その時、「このままでは、好きな音楽の楽しさを半分も味わえていないのではないか?」と感じ始めたのです。
「間違えてもいいから、とにかく音を出してみよう」
「センスがないから無理」という思い込みが、ずっと私の演奏の幅を狭めているのではないか。そう考えるようになり、少しずつアドリブに挑戦してみようと決意しました。でも、何から始めれば良いのか全く分かりません。複雑なジャズ理論の本を手に取ってみましたが、難解すぎてすぐに挫折してしまいました。
そんな時、ある音楽仲間に「最初は難しく考えすぎず、好きな曲の簡単なアドリブフレーズを真似てみたり、シンプルなペンタトニック・スケールを使って適当に音を出してみたりするだけでもいいんだよ」とアドバイスをもらいました。
その言葉に背中を押され、まずはブルースでよく使われる簡単なスケールを一つ覚え、お手本となる音源に合わせて、そのスケール内の音を「適当に」並べて弾いてみることから始めました。最初は、音同士がつながらず、リズムもバラバラで、とても演奏とは呼べないような状態でした。「やっぱり自分にはセンスがないんだ…」と落ち込むこともありました。
でも、アドバイスにあった「間違えてもいいから、とにかく音を出してみる」という言葉を思い出し、恥ずかしさや失敗への恐怖をぐっと抑えて、毎日少しずつでも音を出す時間を取るようにしました。完璧を目指すのではなく、まずは「音が繋がる」ことを目標にしたり、「この音の並び、少し心地よいかも?」と感じる瞬間を探したりする意識を持つようにしたのです。
「面白い音」を探す感覚が、演奏を変えた
続けていくうちに、少しずつですが、音源のリズムに乗ってスケール内の音を滑らかに繋げられるようになってきました。そして、たまに「あれ?今のフレーズ、自分でも結構好きだな」と思える瞬間が出てくるようになりました。それは、楽譜に書かれた音を完璧に弾けた時の達成感とはまた違う、「自分の内側から出てきた音」という感覚でした。
「正解を弾こう」とする意識から、「面白い音、心地よい音を探そう」という意識に変わった時、アドリブ練習が俄然楽しくなっていきました。音源を聴くときも、メロディだけでなく、ベースラインやコードの響き、ドラムのリズムなど、音楽を構成する様々な要素に耳を傾けるようになり、音楽に対する理解が深まったように感じます。
アドリブができるようになったことで、私の演奏は大きく変わりました。楽譜通りに弾く演奏にも、自分なりの感情や解釈を乗せられるようになり、より深みが増したと感じています。また、セッションなどで他の楽器と音で対話する楽しさも知ることができました。
あなたの「センスがない」は、まだ見ぬ可能性かもしれません
「アドリブなんてセンスがないと無理」という過去の自分に言いたいのは、「それは思い込みだよ」ということです。もちろん、生まれ持った感覚もあるかもしれませんが、多くは音楽への向き合い方、少しずつの練習、そして何より「失敗を恐れずに音を出す」という勇気から生まれてくるものだと、今は感じています。
もしあなたが、「アドリブが苦手」「センスがないから無理」と感じているなら、まずは難しく考えずに、簡単なスケールで「面白い音」を探してみることから始めてみてはいかがでしょうか。間違えても大丈夫です。変な音が出たって大丈夫です。その一歩が、あなたの演奏と、あなた自身の可能性を大きく広げるきっかけになるかもしれません。
演奏を通して得られる「新しい自分」との出会いは、あなたの音楽ライフを、そしてきっと人生を、より豊かにしてくれるはずです。